Main1-1:両手に林檎を持った冒険者
静かな家で両手に林檎を持った女性。
懐かしむように目線を向けているのは1枚の絵と使い古した弦楽器用の弓。
絵は新しいようで、描かれているのは1人の老婆だった。
その絵を見ながら女性は赤く綺麗な林檎を1つ齧る。
額縁は存在しないようで、風で飛ばないように四隅には石を文鎮代わりに置かれていた。
“じゃぁ、ばっちゃん…私はそろそろ行くよ。
教えてくれた戦歌と共に、この世界を見に行くよ”
それ以降、その家はただ静けさだけを残した。
——
“さて、冒険者登録も済んだし弓術士ギルドにも挨拶できたし、今日は宿をとって休むかー”
ガウラ・リガン。
それが彼女の名前だ。
この日冒険者として登録された。
白い髪に耳と尻尾…エオルゼアではミコッテという種族に入る。
過去の記憶はないらしく、少々謎の多い人物だ。
ゆらゆらと尻尾を揺らしながらメモの確認をし、食料として持っていた林檎を齧っていく。
その林檎は赤く綺麗で、ここまで色の濃い物はあまり見ないだろうと言わせるほどのものだ。
ここまで赤い林檎は、黒衣森の何処かにある農園‘ダーンバレン農園’でしか出来ないとされている。
つい先日、そのダーンバレン農園の夫人‘ディッケル・ダーンバレン’が亡くなったと噂が出始めた。
跡継ぎも存在しないため、真偽を目的に双蛇党が調査に出向くとも言われている。
“ディッケルのばっちゃんは‘双蛇党に報告しろ’とは言ってないから、そこら辺は双蛇党に任せよう。
封鎖されなければいいんだけど”
記憶のない彼女を拾い育てたのはそのディッケルだ。
エレゼンの夫人で種族特有の誇り高い性格はあるものの、種族関係なく優しさを振る舞えるのもディッケルの長所。
それ故に拾われた。
だがガウラはダーンバレンの苗字は貰わず、持ち物にあったリガンの苗字を名乗ることにした。
記憶の回復に繋がれば、そう思ったのだ。
“さ、寝て明日に備えるか。
挨拶をしただけだから明日はやる事も多いだろうし”
——
後日、そのディッケル・ダーンバレンの逝去が双蛇党によって確認された。
そしてディッケルの遺書が残っていたことでそこに書かれていたガウラの名前のもと特定され、ガウラ本人の意思により封鎖を止めた。
また帰れるように、旅路に困る者の憩いの場としての提供を条件としたのだ。
それ以降は農園の名前を変え‘ダーンバレンの休息園’とされた。
そんな彼女がこの先、光の戦士として活躍するとは誰も予想しなかっただろう。
双蛇党の上層によって隠されている任務の重要人物だとも、双子の弟の存在も、陰から追い見守る人物がいた事も、何も予想はできないだろう。
“お姉ちゃん、次の曲は!?”
“あぁ分かった、なら私の十八番を演奏しよう”
奏でるは前奏曲。
物語と冒険の始まりには丁度いい曲だ。
始まりは弓と弦、両手に林檎を持った冒険者である。
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