Main1-8:音信不通騒動
ある日、人が急に居なくなった。
エオルゼアではたまに耳にする言葉だったりする。
賊の仕業だったり、蛮族の仕業だったり…理由は色々あるのだが都市や集落の外は危険だと子供に教えるための言葉にもなっていたりすることもある。
なぜこんな話をしているのかと言うと、今まさに人探しをしているためだ。
居なくなることはよくある事だが、この2週間程連絡がついていないということが分かり探すことにした。
「どこに行ったんだ、ガウラ…」
四六時中走り回っていたヴァルが立ち止まり、小さくそう呟いた。
─────
「不滅隊に呼ばれた?」
「あぁ、大闘士として意見が欲しいって言われてね。
遠出はしないだろうから2日程度で帰ってくるよ」
「了解した」
「家は自由に使ってくれて構わないからな。
それじゃぁ行ってくるよ」
そんな話をした2週間前。
この日はヴァルも故郷へ一時帰還する予定だったので別行動だった。
いくら一族の使命とはいえ、ずっと見守っているわけではないのは事実…というのもガウラが前に呟いた[たまには顔を出してくれ]という言葉が少し引っかかってしまい、以降は遠くから見守るのは毎日ではなく時々でという形になったのだ。
それ以外は先程のように普通に顔を出していたりする。
役柄上顔を見せることは少ないが、お陰で今まで以上に交流できている感覚はある気がする。
これが正しいかどうかはまだ分からないが。
─────
2日程度で帰ってくると言っていたはずのガウラが帰ってこなくなって4日目になった。
あまり自分から連絡を取らないのでこの日もじっと待っていたのだが、結局この日に連絡を寄越したきた相手はアリスだった。
リンクシェル越しでヘリオとリリンと言っていたか…彼らの声がしていた。
1週間が経った。
ガウラからの連絡はない。
こちらから連絡をするべきかと考えていたら、リンクシェルが鳴った。
相手はアリス、少し慌てているような声だ。
《ヴァルさん!》
「なんだ騒がしい…」
《義姉さん、そっちにいますか!?》
「帰ってきていない」
《連絡が付けれないんです!》
「は?」
《ちょっと相談したいことがあって義姉さんにもリンクシェル繋げようとしたんですけど、繋がらなくって…そっちにいるのかなって…》
怒られるとでも思っているのか相手はどんどん声が小さくなっていく。
「ガウラなら1週間前に不滅隊に行っている。
2日程度で帰ってくると言われたが、音沙汰がないままだ」
《ええ!?
それってヤバいんじゃ…》
「……あたいからも連絡を入れてみる」
《お願いします!
あ、そうだついでにヴァルさんにも相談が。
神隠しって、あると思いますか?》
「………は?」
─────
トームストーンでガウラ宛にメッセージを入れて次の日。
結局アリスの質問に答えなかったヴァルは、神隠しについて考えていた。
[白い髪の人が忽然と居なくなる]
どうも彼が引き受けた依頼内容の一部らしい。
依頼を受けた場所はキャンプ・ドライボーンで、神隠しが頻繁に起きているとかなんとか噂があるので調査をしてほしいとのことだ。
調べていくうちに狙われた人は皆[白い髪の持ち主]だったという。
さらに調査を続けていくと、いつの間にか中央ザナラーン/北ザナラーンを経由してモードゥナに到着したらしい。
思った以上に行動範囲が広く1人では限界があるため、ヘリオやヴァルに話が来たようだ。
ガウラにも連絡をしようとしたのだが、こちらは繋がらず。
結局1日経ったがメッセージも既読がつかないままだった。
ヘリオはというとモードゥナから調査を開始しており、現在はなぜか高地ドラヴァニアのテイルフェザーにいる。
こちらの話的には[通り過ぎてしまった]らしく、テイルフェザーでは神隠しにあった人がいるかどうかの調査に切り替えているそうだ。
ヘリオとヴァルが連絡を取り合うわけもないので、これらの情報はアリス経由で来ている。
─────
そこから約1週間後。
ヴァルはずっと走っていた。
ヘリオの更なる情報から、神隠しの原因は近頃クルザスに入ってきた賊が起こした人攫いだということが判明した。
それだけでは動かないヴァルだっただろうが、ヘリオが聞き込みをしていた人物の中に賊が運んでいる荷馬車の中を見たという人がいたのだ。
荷馬車の中は暗く殆ど状況を伺えなかったが、一際鋭く光る目が見えたという。
[あんたの目に似ていたよ]とヘリオは相手にそう言われた。
彼は双子だ。
似ていたのなら相手は彼女しかいないだろう。
嫌な予感をしたままずっと走り回っている。
《ヴァルさん!》
「なんだ!」
《今、俺イシュガルドに到達して蒼天騎士団と話をしているんですけど…賊の居場所が分かったかもしれません!》
「どこだ!」
《クルザス西部高地…あそこに[ヘムロック]と言われる集落の跡地があるんです!
そこにいる可能性が高いって!》
「…了解した」
アリスからの連絡だった。
居場所が把握できたからか少々落ち着きを取り戻すヴァル。
向かおうとした瞬間にまたも誰かから連絡が入った。
宛名はヘリオだ。
今回の件で連絡先を交換していた。
「今度はなんだ!」
《落ち着け、ヘリオだ。
今ゴルガニュ牧場にいる、数名人攫いの被害者を保護して避難している状態だ》
「なんだと?」
《話を聞いてみると、どうやら攫われていた中の1人が逃げ道を確保して、他の連中が逃げ出せたようだ。
他にも残っているかは分からないが、ほぼほぼ避難できているらしい。
俺はこの後アリスに連絡をして救助要請する》
「了解した」
《だが姉さんがいない。
恐らく退路を作ったのは姉さんで、まだ向こうにいる可能性が高い。
奴らのアジトはヘムロックだと保護した1人が言っていた》
「蒼天騎士団の予想通りか。
私はガウラを探しに行く」
《任せた》
ヴァルは急ぎヘムロックへ向かった。
─────
「折角のカネが逃げちまったじゃねぇか!
どうしてくれんだ、よォッ!?」
「ガハッ…゙!」
「おいおい、そいつもカネなんだから傷つけんじゃねぇぞ〜?」
場所が変わりヘムロックの小屋の中。
数時間前の様子だ。
やはり無人の場所だけあってホコリも多ければ暖も取れないので寒さを感じる。
蹴り飛ばされた髪の短い女性が鋭い眼光で賊を睨んでいた。
「そんなに睨まれても可愛いだけなんだよなぁ?」
「ッ…」
「ハァァ……
正直あんたのせいで1週間もここで足止めを食らってるんだ、どうしてくれるんだァ?」
「知らないね…!」
「いいや思い知ってもらうさ、俺たちに抵抗した罰でなァ!」
そう言って小屋に置かれたままの持ち手だけが残った農道具で女性の頭を殴った。
抵抗する間もなく殴られた衝撃で女性は意識を手放す。
農道具も放置されてしばらく経っていたせいですぐに折れてしまった。
─────
ヴァルもクルザスを北上しヘムロックへ到着した。
足音を立てずに小屋を一つ一つ確認していく。
いる場所を把握できない限りは突入も増援要請もできないからだ。
数分後、どこかの小屋から声が聞こえてきた。
男が数人話している声だ。
耳を立て場所を確かめる。
奥の小屋からだ。
そっと近づき窓越しで覗いてみると、男が5人いた。
話している内容までは分からないが、何かを相談しているような声色だ。
もう少し見渡すと、集団の足元に誰かがうつ伏せになっているのが見えた。
裸足で切り傷や打撲傷が見える。
気付かれないように隠れ、アリスにメッセージを送信した。
[賊の集団を見つけた。
座標を貼っておく、増援要請を頼む]
すぐに返事が返ってき、了解とのことだった。
すぐさま突入準備に取り掛かった。
─────
音を極力立てず扉の鍵を開けた。
そっと扉を開け入り込み、何事もなかったかのように閉める。
小屋の中には数部屋あり、中の扉はない状態だ。
「で、結局こいつは自分以外のカネを逃がしちまったのかい?」
「あぁそうだよ!
お陰で1週間も足止めだ!捜索するにも思った以上に蒼天騎士団の行動が早くてうじゃうじゃいやがった!」
「…、ぐ、ぅ゙……」
男の声と、踏まれているような吃った声。
壁越しで覗くと先程見た通り、5人の集団と倒れている1人がいた。
男の1人は足止めを食らったという苛立ちで小屋に放置されていた小物を地面に叩きつけている。
壊れる音が耳元で響くのか寒さが直接感じられるのか、倒れたままの者は体を震わせている。
2人の男は今後どうするかを相談している。
後の2人は倒れている者の見張りというところだろうか。
倒れている者はうつ伏せになっているため顔がよく見えない。
白い髪は短く、種族特有の耳と尻尾は項垂れていた。
仕留めやすいのは1人行動の苛立っている男だろうか。
そう考え戦闘態勢に入るヴァル。
静かに呼吸をし、次の瞬間姿が見えなくなった。
─────
「ガハッ!」
「なんだ!?」
「おい、どうし、たァ゙ッ!?」
2人目を気絶させ、また姿を眩ませた。
「誰だ!?」
「どこを見ている?」
「な…ん!?」
頭上から奇襲し3人目を気絶させた。
残った2人は倒れている者の服の襟を掴み壁際まで引き下がる。
襟を掴まれた者は意識が朦朧としているのかされるがままの様子で顔も項垂れている。
流石に奇襲は難しいと判断したのか、ようやく賊の前に姿を見せたヴァル。
顔は面で隠しているが、その表情は怒りに満ちていた。
一族特有の花の香りが、あれが彼女だと確信させたからだ。
「な、なんだ女じゃねぇか」
「そんな怖い顔をするなんて勿体ないぜお嬢ちゃん。
子猫はさっさと帰りな!」
「その子を返してくれたら、な」
「それは無理な相談だ。
俺たちはこの子に用事があるんだから」
「あたいもその子に用事がある」
「へぇぇ?
けど悪ぃな、俺たちが先約だ。
とっとと帰りな!」
手の空いている方の男が杖を出し黒魔法を繰り出した。
咄嗟に武器を構え防御するヴァル…男も負けじと黒魔法を連発させるのでなかなか彼女に手が届かない。
「起きろよ嬢ちゃん、可愛い子猫がお前を探しに来てくれたんだとよ」
「……゙」
髪を引っ張られ目の前の光景を見せられた女性…ガウラの虚ろな目には薄らと涙が浮かんでいた。
「゙、ァ…ル……」
「……ッ!
その子に触れるな!!」
勢いに任せ魔法を斬る。
男はまだ余裕がありそうだ。
「ゾッコンだねぇ、それ程大事かい」
「……」
「おーおー、怒ってる怒ってる。
顔が見えなくてもオーラが隠せてない、それも可愛いところではあるなァ!」
「俺の最大級魔法を喰らいな!
デスペア!!」
勢いのあるデスペアが発動した。
ヴァルはすぐさま残影で受身を取り軽減したが、デスペアの威力が大きいのか古い小屋は耐えきれず横の壁が壊れた。
残骸と魔法による煙がすごく、一気に視界が悪くなる。
けれど外からの風ですぐに収まり明るくなった…。
エーテルを消耗仕切ってしまったのか発動者は倒れていた。
残った男とガウラは無傷で済んでいる。
「あーあ、派手にやってくれたな…。
あぁ子猫ちゃんはそこから動くなよ?
動くと子猫ちゃんの大好きな子が痛い目にあうことになるからなぁ」
「っ…」
そう言いながらガウラを引き摺りながら壊れた壁から出ようとする。
ガウラは抵抗をしようとしているのか何かを呟いている。
[……たすけて]
言葉が分かった瞬間、ヴァルはまたも目の前から姿を消した。
2秒後、男の悲鳴が聞こえた。
─────
「ヴァルさん!!」
「…遅い」
「すみません…ヘリオの方にも人を手配してたもので…それで賊は!?」
「そこらでくたばっている」
「あ、はい…。
……義姉さんは?」
増援で来たアリスが問うと、ヴァルはそっと腕に抱えている女性の髪を撫でる。
目線を落とすと衰弱した様子のガウラが眠っていた。
「義姉、さん…?」
「生きている、医療の要請も頼む」
「わ、分かりました」
そそくさと蒼天騎士団の元へ戻り事情を話しに行ったアリス。
ヴァルは静かに眠る彼女をじっと見つめていた。
─────
調査結果としては、被害者は運良く全員無事だったそうだ。
各々保護者とも連絡が取れ回復の後に帰れるとのことだ。
賊は白い髪を切り束にして売り捌いていたと供述している。
身柄もカネになるということで、ヴァルの奇襲とガウラの抵抗がなければ奴隷売買もされていただろう。
ガウラももちろん髪を切られ短くなっていた。
彼女の負傷が一番酷く、打撲に切り傷、凍傷、頭の強打と診断された。
もちろん要安静ということで現在イシュガルドの医療館にいる。
「……ガウラ、入ってもいいか…?」
「どうぞ」
「失礼する」
ガウラの表情は思った以上に優しく、あの時見せた恐怖の面影はどこにもなかった。
ヴァルの方は少々険しい顔をしている。
「…そんな顔しなさんな」
「だが…」
「お前のお陰で助かったんだから、そこは胸を張りな?」
「………お前が強いことは知っている。
知っているからこそ、どこかで大丈夫だと思ってしまい連絡も疎かにしてしまった。
あのバカが行動していなければ、救助はもっと遅れていた…」
「……」
「あたいは、ガウラを護る使命があるのに…」
「護ってくれたじゃないか」
「でも…!」
「護ってくれたさ、私の弱い部分を」
そう言いながら窓の外を見るガウラ。
まるで背けるようにそうした彼女の表情をガラス越しで見ると、先程と違い今にも泣きそうだった。
あぁ、英雄でも恐怖は感じるものなんだな…そう思いつつもヴァルは何も言わずこの日はずっと彼女の傍にいた。
[頼ることなんてないだろうさ!]
そんな冗談を言っていたガウラが、初めて誰かに助けを求めた話。
─────
「そういえば、何で抵抗しなかったんですか?
義姉さんの実力なら捕まることもなかっただろうに…」
「目の前に人質を出されちゃ、流石に私も闘えないさ」
「なるほど…」
「……退院したとはいえしばらく姉さんは休んでもらうぞ」
「ええ!?
旅ができると思ったのに!」
「病み上がりで行くバカがいるか!?
それに髪もそのままだろう…どうにかしてもらえ」
「はぁ〜…ヘリオも頑固だよな…」
「んー、流石に俺もヘリオに賛同かな…」
「…チッ」
「!?(半泣き)」
退院後はヘリオがヴァルに連絡していたようで最低でも1週間は見張っておいてくれとのことだった。
茶会を済ませガウラだけになると、どこからかヴァルが姿を見せた。
「この髪、綺麗にできるかい?」
「……あぁ」
そうして乱雑に切られたままの髪を整えてもらい、スッキリした様子のガウラは満足そうに微笑んだ。
「あ、そうだヴァル」
「なんだ?」
「…私が泣きべそかいてたのは、秘密にしておいてくれな?」
「………ふふ、了解した」
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