Main1-14:新たな依代
今日は、先日依頼して出来上がったぬいぐるみ…ホワイトミスラを持って集落へやって来たヘリオ。
相変わらず瓦礫は放ったらかしにされてる部分が多く、自然がそれを隠し始めるかのように成長しているだけだった。
『おや、今日は何用だい?』
「…母さんの依代ができたから」
『あぁ、そういえばこのタイニークァールは娘のものだったね。
もしかして手に持ってるそれかい?』
「あぁ。
母さんに、似てると思う」
差し出したホワイトミスラは、確かに若い頃のジシャにそっくりだった。
黄色い瞳に白い髪。
少し短めの尻尾と耳。
服はまだシンプルにベージュのワンピースだ。
『ふむ、無属性且つ魔力が空のクリスタルが入っているね?』
「あぁ、これを媒介にできればと思うがどうだ?」
『可能だろう。
死した者故にエーテル界へ還るものだと思って待っていたが、なかなかどうもそうはいかずに今もここにいるからね…試してみよう』
そう言われると、ヘリオはホワイトミスラを地面に置いた。
ジシャが媒介に集中し魔力を込めると、クリスタルが反応したのか淡く光る。
しばらく待つとタイニークァールの方が動かなくなり、代わりにホワイトミスラの手が少し動いた。
どうやら無事に移ることができたらしい。
「どうだ?」
『……ふむ、五体満足。
見えるし動くし聞こえるし、口も動く。
なかなかすごいじゃないか』
「頼んだ相手が、姉さんの義眼を診てくれてる錬金術師だからな」
『そうだったのか』
次にヘリオは荷物を漁り出したのは裁縫セットと調理セットだった。
大きさはホワイトミスラに合わせられている。
ちなみにこのホワイトミスラ、身長が約40cmと大きめである。
大きめである分、細部まで丁寧に作られているので人間と変わらず体を動かせるのだろう。
「これは彫金師に頼んで作ってもらったものだ。
裁縫セットと調理セットがあれば、あの時と変わらず過ごせるだろうと思った」
『…お前も変わらず優しい子だね、ありがとう。
それじゃぁ、早速だが裁縫セットを使おうかな。
この服も申し分ないんだが、そろそろ冷えるだろうからね…冬に備えて服を作ってしまおう』
「布なら姉さんから要らないからといくつか貰っている。
ボタンはサイズに合うものがあればいいんだが」
『問題ないよ』
布を受け取り汚れないように地面に敷いた野宿用のシートの上に置いて、色とりどりな布を見てみる。
その目はいつの日かの記憶に残る、母親の優しい目だった。
─────
作り始めたのはラミーシャツ。
慣れた手つきで制作する姿は、さすが一児の母とも言えるだろう。
と言っても時間はかかるので、その間にヘリオは瓦礫の撤去を始めていった。
絡まった草を丁寧に切りつつ木材と鉄クズを分ける。
合間に使えそうな物は別で保管。
これに関しては、後で作る予定のジシャ用の家の材料になる。
瓦礫の撤去中、ガタリと音を立てて小さな何かが落ちた。
ヘリオが拾って見てみると、箱のような形をしていた。
そっと開けてみると中には錆びた歯車と針と、凹凸のある何かが入っている。
オルゴールだろうか…それにしてはネジがない。
『おや、懐かしいものを見つけたねぇ』
「知ってるのか?」
声をかけてきたジシャにそれを見せる。
『それはパパがプロポーズした時にくれた物だよ』
「え?」
『……パパはね、後に分かったことなんだけど、産まれが黒き一族の方だったんだ』
「……それって確か」
『あぁ、黒き一族の純血の間に稀に産まれる[白き蝶]。
子を授かれなかった純血種夫婦が引き取り、ここで育ったんだよ。
オルゴールは、引き取る際に彼の両親がお守り代わりにと置いていった物だそうだ』
なぜだろうか、納得ができてしまった。
確かに父が元々武力の強い黒き一族を両親としているなら、ガウラの持つ武力の強さにも頷ける。
それでもヘラが純血児として扱われたのは、黒き一族の祖にニア・リガンがいたから。
ガウラの武力について、帰って単純な理由だったことに気づきヘリオはため息をついた。
『今こうして話をして、私も納得したよ。
パパが白き蝶なら、ヘラが武力に目覚めるのは何もおかしいことではなかったんだ』
「単純明快だ」
『ふふ。
…よし、ラミーシャツの完成だよ』
出来上がったシャツを当ててみるジシャ。
サイズは丁度よさそうで、慣れているだけあって綺麗にできている。
「手は問題なく動かせたみたいだな」
『あぁ、錬金術師さんにお礼を言っておいてくれ』
「分かった」
─────
『…さて、瓦礫も大方片付けてくれたのは有難いのだが…』
「家造りか?」
『そうさね…。
私は木工はできないよ』
「俺もできない」
『ガウラは?』
「姉さんは最近忙しいみたいで、ここに来れても作る時間がない気がする」
『ふむ』
「アリスに頼むか…?」
『彼、木工できるのかい?』
「熟練度はあるはずだ。
だが作ってるところをあまり見ていない気がする…」
『ほほう』
「まぁ、どちらかに頼んでみるよ」
『ありがとう。
……それにしても流石男の子だね、あれだけあった瓦礫の家が、大半なくなってしまったよ』
「前に皆で軽く作業をしていたからな、片付けやすくはなっていた」
周りを見渡すと、集落内の瓦礫が半分以上片付いており、集められた木材たちは隅に綺麗に積まれていた。
エーテル体だけあって疲労はあまり感じないようで、ヘリオは未だに平然な顔をしている。
そんな彼の横顔を見て、ジシャは夫の面影を感じていた。
─────
夜になった頃にヘリオが帰り、ジシャは片付いた集落を眺めていた。
ちなみにオルゴールはヘリオが一旦持ち帰り、修復できるか診てみるとのことだ。
「懐かしい姿だね」
『ヴィラ』
陰から出てきたのはヴィラだった。
懐かしい姿を見て小さく笑みを浮かべる。
「どうしたんだ?その姿は」
『ヘリオだよ。
知人に頼んでいたみたいで、私用の体を作って持ってきてくれたんだ』
「そうか、彼なら記憶があるからジシャの姿も覚えているのか」
『そうだろうね』
それから軽く世間話をした。
双方、子を授かった者同士なので育児話にも花が咲く。
そして口を合わせて[歳頃の娘に最愛の者ができてほしい]等と言う。
恋愛というものに興味のない様子のヴァルとガウラ。
違うようでどこか似ている2人を話題にしては、母親たちは笑って話をしていった。
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