Main2-3:英雄の心情

「暁の血盟に入ろうと思う」
そうアリスから聞いた時、ヘリオは目を見開いた。
どういう風の吹き回しだと思った。
アリスの実力は姉共々認めている。
けれど体を張って誰かを守る姿勢だけはやはり姉と揃って見てられないと思う。
それがいつの間にか盾を持ちナイトへと転職し、今こうして先の言葉を述べたのだ。
守りたいものがあるからという理由は分かる、だがそれは暁の血盟に入ってなくとも可能だろう。
何より暁の血盟と共に動くとなれば、戦場に行く機会ももちろん増える。
だが彼が決めたのならその背を押したいとも思うのがヘリオの心情だ。
武器を手にしている以上既に避けられない道だが、果たして姉が許すのか。

ヘリオは「姉さんに聞いてみろ」とだけ伝え、一度席を外した。
アリスは早速ガウラに連絡を入れ事情を話し始める。

『ダメだ』
「どうして!?」
『どうしてもなにも、これは遊びじゃないんだ。
戦場だって今以上に増えるし過酷な戦いも強いられる。
あのカルテノーでのルナ蛮神より状況は酷くなるんだ。
実力は認めてるけど、そんな危険な場所には連れて行きたくない!』
「あ、ちょ、義姉さん!?」

様子を考えるに、ガウラが連絡を切ったのだろう。
怒っている、というよりは何かに恐怖する声色だと思った。

─────

「それじゃぁ、行ってくる。
姉さんの家に行くんだろう?よろしく伝えといてくれ」
「あぁ、ヘリオも賢学がんばってくれな!」

ヘリオがリムサ・ロミンサからオールド・シャーレアンに向かうため、2人は午後から船着場で話をしていた。
出港の合図が聞こえ別れたあと、早速アリスはガウラの家に向かった。

「それで?
私は加入を断ったはずなんだが?」
「義姉さんの気持ちは十分分かります!
だけど俺はもっと近くで守りたい!そのために盾を持つと決めたんです!
それに暁の血盟に入ることで一族に関することも別の視点で知れるかもしれない…そう思ったから──!」
「ダメなものはダメだ」
「どうして!」
「調べものなら私もできるし、何よりお前は私よりヘリオを守るべきだろう!
それにお前から頼まれるより前に、私は念を押してヴァルにも加入するなと言っている。
ヴァル自身も裏稼業に手を出していたから、その点についてはすぐに承諾してくれたけど」
「え、ヴァルさんにそう言ったんですか!?」

そう言ってアリスは壁際にもたれ静かに聞いているヴァルに目を向けた。
ヴァルはため息をつきながらじろりとアリスを見る。

「あたいだってガウラを守れるなら加入して守りたい。
だが本人が来るなと言うんだ、そうなればどうしようもないだろう」
「それだけで認めるんですか!?」
「あたいはあたいのできることを考えただけだ!」
「逃げてるのと同じじゃないか!」
「お前だって押し切るのはワガママというものだろう!」
「お前ら!
喧嘩するなら外でしろ!頭を冷やしてこい!!」

結局その日は許しを貰えないどころか家から追い出されるハメとなった。

─────

「それで、なぜ頑なに認めてやらない?」
『[私]を知られたくないからだ』
「ほう?」

夜中、船の上から姉とリンクシェルで話をするヘリオ。
身内故に相談できるもの、話せることがあると思ったからだ。
案の定、ガウラはポツポツと話し始める。

『きっと、アリスにとって私は[強く勇ましい者]だろう。
そうでない部分も見せはするが、結局はそう感じているはずだ。
けれど実際はそんなんじゃない。
[とても弱く、失うことを恐れる者]だ』
「……」
『私はあいつも失いたくない。
夢を壊したくない。
あいつの中の私が、[勇ましいまま]でいてほしい』
「…俺は、今回ばかりはアリスに賛同する」
『は?』

今度はヘリオが話す番となった。

「姉さんの恐れは分かる、俺も同じ気持ちを持ったから。
だが俺もヴァルもすぐさまあんたの隣に立つことはできない。
ヴァルは裏稼業の件がある上に一族で随一の実力者、裏方としては頼れるが、隣に立てるのかと言われると難しいだろう。
俺も賢学を学ぶのに場所を離れている。
賢者となれればそれこそあんたたちより一歩後ろに立つことになる。
回復職としての立ち位置の問題だ」
『あぁ…』
「だが双剣から剣と盾に持ち替えたアリスならどうだ?
今のあいつならあんたよりも前に出られるだろう。
身を呈して守ろうとするところは許せないが、ナイトとしての実力も上がってきていることは確かだ。
姉さんが1番理解しているはずだが」
『…そうだな』
「隣に立ち共に戦えるのは、アリスが現状として適任だと思うが、どうなんだ?」
『……』

ガウラは考えているのか静かになる。

「それに、あんたが1番望んでいるのは、[隣で共に戦ってくれる者]だろう?」
『…!』

ヘリオの言葉に息を飲むガウラ。
身内だから知っているとかではない、彼は彼女が望んでいるものを1番に感化され、1番最初に理解する者だから言えた言葉だ。
それはまさしくフレイそのもの。
彼とは違う存在だが、エーテルの持ち主が内に秘める感情を理解しやすいことに変わりはない。

『……あーあ、お前に相談したのが悪かったかね』
「なに、姉さんなら最初から答えが分かっていたんじゃないか?」
『どうかな、負の感情は思った以上に気づきにくいからね。
…明日、改めて話をしてみるよ』
「あぁ、そうしてくれ」
『それじゃぁ、私はアリスとヴァルを探してくる』
「え?」
『あー、その、なんだ…2人が喧嘩し始めたものだから家から放り出してしまったのさ…』
「………はは」
『笑ったな!?』
「いや、なに、姉さんらしいなと」

その後どうなったかは分からないが、アリスからトームストーンのメッセージが届き[石の家に行ってくる]と書かれれいるのを見るに、ちゃんと話し合えたのだろうと思う。

─────

無事に暁の血盟にアリスの紹介をし終えたので、ガウラは石の家で茶を頂きながら彼らの様子を見ていた。
アルフィノの姿がない…そういえばエスティニアンもいなかったな、彼を探しに行ったのだろうか。
アリスはヤ・シュトラとエーテル学の話をしている、妙な組み合わせだ。

「あまり納得してないようだな?」
「サンクレッド」

ガウラの向かい席に座りつつ、サンクレッドがそう言った。

「そりゃ、まぁ」
「心配か?」
「それとは違うかな、実力は確かだから」
「あんたも認める程の実力者だってのに、その浮かない顔は何か理由があるんだろう。
俺もミンフィリアやリーンが戦うと決めた時、戸惑った」
「……失いたくないから、断っていたんだ。
それに隣にいるということは、私の嫌な部分も見ることになる。
あいつの中にある私のイメージ像を、崩したくないって感じだな」
「俺が言うのもなんだが、意地張って無茶ばっかりしてるのは如何かと思うぞ?」
「全くだ、お前には言われたくないやい!」

キャンキャン騒いでいると少し離れて話し合っていたアリスとヤ・シュトラがやって来たので、一旦この話を終えることにした。

少し賑やかになった石の家。
彼らの先に待つのは何の正義か。
まだ誰も未来を予測できていなかった。

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