Main1-2:願いの叶う出会い

「何お願いごとするのー?」
「き、決めてない…ナキちゃんは決めたの?」
「ナキは大きくなったら踊り子で有名なひとになりたい、かな!」
「ダンス、好きだもんね?」
「うん!ヘラも決まったら教えてねー!」
バイバイ、と互いに手を振り僕はまた短冊と睨めっこをする。
ナキみたいになりたいものがない、ただお母さんと一緒に暮らしていければなんでもいい。
─────
「お願いごと、決まらなかった?」
「うん…」
「毎年そうだもんねぇ、あんたは欲深い子じゃないから願い事が全然決まらない」
「おかしいかな?」
「いいや。でも、お母さんはもうちょっと欲深くなってもいいんじゃないかなーって思うよ」
本当に何も思いつかない。
歌は苦手だけど別に上手くなくたって生きていける。
弓はたくさん褒めてくれる、的を射るのは得意だ。
チョコボだって好きだけどレーサーになりたいとは思っていない。
「ヘラ」
「なに?」
「その短冊、大事に持っておくんだよ。
今願い事がなくても、いつか決まった時に書けるようにね」
「うん、そうする」
そう言って溜まってきた短冊はこれで何枚目なんだろう。
7枚目の無地の短冊。
─────
「ヘーラぁー!今年のお願いごとなぁにー!?」
「ナキちゃん、ちゃんと前見て!」
「んぎゃっ!」
「大丈夫?ケアルいる?」
「んーん、へーき!
それよりも、今年はちゃんと決まった?」
「……うん、1つだけ夢ができたから、叶うようにって」
「そっかぁー。あ、ナキはね!」
「踊り子、でしょ?」
「せいかーい!」
夢ができたのは突然だった。
ふと、この集落の外の世界が気になったんだ。
お母さんに聞いてみれば、ただ一言「冒険者になれたら色んな場所に行けるよ」だけだった。
この言葉が頭から離れなかった。
「ぼーけんしゃ?」
「うん、冒険者。世界を旅する人のこと。
なって世界を見てきたいなぁって」
「へぇー?いい夢だね!」
「ナキちゃんも踊り子として世界を旅していくなら、一緒に行くのも楽しいと思うよ?」
「それ、いい考えだね!ヘラは楽器得意だし!」
「でも歌えないよ?」
「全然いいよー!ナキが代わりに歌うから!」
「歌って踊れるダンサー、いいね!」
「でしょー!」
本当に、こういう平和がずっと続けばいいなと。
そう思っていたのに。
誰もあんな未来が来るなんて思ってなかっただろうに。
─────
「ナキの家族は外に出たみたいだねぇ」
「うん」
「ナキの願いごとを叶えるために、ウルダハまで行くのか…ヘラも行けるようになるといいねぇ」
「うん、そのためにもっと弓を上手くなりたい」
「そうかい、なら後で狩りに行こうか。しばらくの貯蓄稼ぎだよ」
「うん…!」
正直、あの惨事を考えるとナキたち家族が外に旅立ってよかったなと思う。
死なずに済むんだ。
会えるかどうかは、もう分からないけど。
─────
21歳の七夕。
東方から買った小さい笹に飾り付けをしていた。
「短冊?」
「あぁ、特に書くものは思いつかないけどね。
持っておけば、いつか思いついた時に書けるだろう?」
「姉さんらしいな」
「それじゃぁ私はウルダハに行ってくるよ、不滅隊に用事があるんでね」
そう言ってやってきたウルダハ。用事はすぐに終わったので貧民街を経由して散策することにした。
初めて来た時とは大分雰囲気が変わったと思う。
貧民にも仕事が来ているようで忙しそうだ。
賑やかなマーケット街で微かに響いた鈴の音…何故だろうかそれが気になって足を動かした。
「…いい、踊りですね」
「あら、ありがとう!」
「一曲、一緒しても?」
「えぇ!友達なら大歓迎よ!」
それから長いこと演奏とダンスが続いた。
貰えたチップの量に満足したのか締めのダンスが始まる。
それは親しき友へ送るダンス。2人で踊るもの。
ジョブ:踊り子をやっているから分かるもの、投擲を持ち共に歌い踊った。
「ヘラも歌って踊れるのね!」
「ヘラ?人違いじゃないかい?」
「いいえ、アナタはヘラよ!見た目も言葉遣いも変わったけど、中身はなんにも変わってないもの!」
「……そうか、でも私は記憶がないんだ」
「え?」
ピタリと手が止まる。
「記憶、ないの?」
「あぁ、ないよ。幼少期の記憶は全く。
だから君の名前も知らない、すまないね」
「んーん、へーき。
じゃぁ自己紹介しなくちゃね!
ナキはナキ!世界一の踊り子を目指して絶賛修行中〜!
改めて、名前教えてよ!」
「私はガウラだ、拾ってくれたばっちゃんがつけた名前だから本名ではないというのは分かっていたが…そうか、ヘラというのが私の本名か」
「うん、見間違えじゃなけりゃ!
歌がこんなに上手になってるとは思ってなかったもの、一瞬疑っちゃったよね!
内気で夢もなかなか決まらなくておよおよしていたあのヘラが、ちゃんと夢を叶えてここにいるんだもの!名前が変わってたのはもっと驚き!」
何故だろう、彼女の元気さが嘘ではないと言っているようだった。
そこからは話も弾み連絡先も交換。
「短冊、持ってきて正解だったな…今年もちゃんと決まったよ」
いつか、記憶が戻りますように。
そしていつか、昔話もできますように。

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