Extra1:些細な手土産
もし、彼らと分かり合えたら。
そう考える日は多くなった。
元はひとつの世界だった、だなんて言われると考えてしまう。
元の世界での私はどういう人だったのだろうと。
アーモロートの住人の姿を見ると区別が全くつかないから、別の見方で誰なのかを判断しているのだろうとも。
決戦の時に私を誰かと見間違えたかのような彼のセリフから、私にはきっとできない見分け方なんだろうと痛感した。
─────
『命のかぎり歩み
地上の星々を繋がんとした
親愛なる者の記録をここに
お前が手繰れば
運命は集うだろう
たとえ今は天地に隔たれ
心隔たれていようとも』
流れる詩のような、けれどはっきりと脳裏に焼き付く言葉は私に勇気をくれた。
「ならば覚えていろ」と言った彼が残した記録。
残った13人と去った1人の大切な記録。
彼らの想いが分かった時にはもう遅かった。
勝利に得る喜びなんて、なかった。
でも、なぜ彼はこんなものを残して還ったのだろう?
─────
「はぁー…」
「そんな調子でもう何日目だ、姉さん」
「あの場にいなかったお前には分からないだろうよ」
「はぁ…。
全員元の場所に帰れて万々歳じゃないか、何が不満なんだ」
「不満じゃないさ、むしろそこは喜びたいくらいだ。
ただ…」
「ただ?」
「やっぱり古代人の思考は分からないなと思ってさ」
「あんたを『アゼム』と特定したアシエンたちか」
「今思えば、エメトセルクもエリディブスも私をそのアゼムと見ていた様子だったからね。
私は外見でしか人の特定ができないタイプだ、彼らは私の何を見て特定したんだろう」
お前にはわかるか?
そんな目で俺を見る。
確かにそんな見方しかできない体になったのには責任があるが…。
「お前やアリス、リリンも外見だけで特定してるようには見えないのさ。
それに、お前に限っては隠し事が多い。問いやしないけどさすがに今の質問には答えれるだろう。
私にできないことを、お前たちは平気でやっているんだからな?」
「…エーテルだ。古代人からすると魂の色ってところだろう。
エーテル学には詳しくないが、オーラに近いものだと思えばいい。
俺は…いや、ほとんどのヒトはそれを感じて相手が誰なのかを特定することができるはずだ」
「エーテルねぇ、そりゃ私にはできないものだな」
「姉さんは苦手だからな、というよりできるであろう俺たちからしても意識しないとできないことだ」
「そうなのか?」
「あぁ、…まぁヤ・シュトラ辺りになるといとも簡単にやってしまいそうだが。エーテルのみで判断するのもなかなかに負担がかかるのは知っているつもりだ」
「そういえば、マトーヤばあさんがそんな事を過去に言っていたな」
特に体内エーテルが少ない彼女を特定するのは尚難しい。
エメトセルクと対峙する際にアルバートの魂を受け取って以降は色濃くなったが…それでもたかが知れてる量だ。
だが何故だろう、エリディブスと対峙した後は何かが彼女の魂『エーテル』を更に補う形に見えている。
決して増えたわけじゃないが、消えないと確信できる状態と言えるのか。
兎に角不安定ではない。
「なんだい?私の顔を見て」
「いや、最初と比べると強くなったなと思ってな」
「冒険を始めた頃は無知すぎたからね、そりゃあの時から比べると変わってるさ」
「それもそうだが、個の存在も強くなったなと」
「あー、エーテル量のことかい?」
「……知ってたのか?」
「お前が言わないだけで馬鹿正直な義弟たちを見てるとさすがの脳筋詩人でも分かっちまうよ!」
「う゛…」
「まぁ、自分でもエーテルの扱いが下手だってのは分かっていたから察せれたのもあるけど。
…ないに等しかっただろう」
「……あぁ、消えるんじゃないかと」
「そっか」
「だが今は、アルバートの魂ときちんと調和しているのか綺麗に補えている。
エリディブスとの対峙以降は尚更」
「…そっか、それならよかった」
そこまで分かっていて俺のことは聞かないのか。
そう言いそうになったが、彼女も『俺』だ。必要以上のことは言わない。
言わないなら、聞かないし答えない。
だがいつかは知る。
その時がいつなのかは分からないが。
「さて、俺はもう出かけるぞ」
「おや、どこに行くんだい?」
「第一世界だ。生意気妖精王が『若木に会いたい』と泣きべそかいていたからな、あんたの代わりに」
「おやおや、それは悪いことをしてるね。
ならついでにクリスタリウムにも寄っていってくれないかい?フェオちゃんにもあるのだけど、ライナさんたちにも手土産があってさ」
「……自分で行ってきて欲しいんだが」
「まぁまぁそう言わずに。それにさっきから後ろの視線が痛いしね」
「あー…。
で、何を持っていくんだ?」
「アラガンメロンだよ。いやぁー、あいつら油断してると大量にできちゃうね!
16玉あr──」
「あんたが持っていけよ。」
「私はこっち(原初世界)の皆に配りに行くからおあいこだってば!」
「チッ…」
「それじゃぁレターに送っておくから頼んだよ!
──アリゼー、グ・ラハ!目線が痛いんだけど何か用事かー!?」
「………マイペースすぎるだろ。」
─────
「というわけだ」
「若木の弟くんの私に対する発言は聞かなかったことにするけれど、アラガンメロンなるものはちゃんと頂戴するのだわ!
でもこれ、どう見てもs──」
「言うな」
「スイk──」
「その羽根もぎ取るぞ」
「酷いのだわ!酷いのだわ!!」
それで、若木の調子はどうなの?
とアラガンメロンもといスイカの上に座りながら聞いてくる妖精王。
彼女には隠し事はできる気がしないので素直に話す。
うんうんと頷く彼女は楽しそうに話を聞く。
何だかナキと似たような仕草だなと思いつつ話を続ける。
そして気づけば夜だった。
いつの間にかスイカの上でぐーすか寝ている妖精王をそっとして、クリスタリウムの方に歩き始める。
『泣かないで』
「?」
妖精王とは違う声の主にそう言われた気がした。
俺が泣くとは思えんだろうと言ってやりたい。
その日のイル・メグは雨に濡れていた。
─────
「闇の戦士様の代わりに?」
「あぁ、大量にできたからとおすそ分けだそうだ。数が多いから、みんなで分けて食べるといいだろう」
「それはそれは、ありがとうございます。
皆で分けて食べますね」
「あぁ、そうしてくれ。オススメは塩を少々ふっかけることだな」
「なるほど、やってみましょう。
……『水晶公』に会いに行きますか?」
「…いや、いい。その役目は俺じゃないからな」
「そうですか。ではお気をつけてお帰りください」
「あぁ、ライナさんも。
今度は『水晶公』からの手土産も持ってくる」
「えぇ」
淡々としたやり取りだが、これでも感情は籠っている。
これが彼女の表現だから、これが俺の表現だから。
アラガンメロンが無事に行き渡ったのを見届けると、俺は原初世界に帰った。
─────
原初世界は夕方だった。
第一世界は朝方だったので時間の流れが違うというのも頷ける。
そして道中でバテたかのように寝転がっている姉。…横のギガントードに食われるぞ。
「おい」
「よぉ」
「何してんだ」
「休憩。あ、そこに立ってると危ないぞ」
「?」
「矢が飛んでくる」
「は?」
何がと思ったがすぐに目の前を矢が通り過ぎた。
矢は無事に同じく横で寝ていたギガントードに当たり、眠りから覚めこちらに襲い掛かる。
「ったく仕留めるなら一撃で仕留めてみせろよ!」
横で我関せずとする姉を他所に大剣をトードに振り仕留める。
「お見事」
「あんたは起きろ」
なんなんだこのマイペースはと思うが、まぁいつもなのでいいだろう。
「というより誰だ、矢を放ったの」
「ガウラ悪い!矢がそっちに…って、ヘリオじゃん…怒ってる?」
「当たり前だグ・ラハ・ティア。俺を殺す気か?」
「悪い悪い!
久しぶりに扱うと思った以上に鈍っててさ!」
「ちょっとグ・ラハ!何よ今のへっぽこ矢…って、おかえりヘリオ……」
「よう、アリゼー」
相当ご立腹なのが伝わるのか、アリゼーも小さくなってしまった。
「まぁ見事にヘリオがギガントードを潰してくれたし問題ないさ」
「姉さんは身の危険を感じてくれ…よくもまぁギガントードの横で寝れるな?」
「さすがの私でも2人相手に2日連続ぶっ通し訓練は無理だって!
それに、ギガントードが勝手に寄ってきて勝手に寝始めただけだよ…」
こいつはモンスターにでも好かれる性質なのか?
「んぁー、喋ってたら腹減っちまったし喉乾いた!
またアラガンメロンができちゃってて余ってるから帰って食べよう!な!」
「「「また増えたのか」」」
でも姉さんって、こんなにマイペースだっただろうか?
なんというか、アルバートの魂やアゼムの記録やらが入り交じりこんなことになっているような気もするが…まぁ、彼女は彼女だから問題ないだろう。
しばらく様子を見るとするか。
そういえば、新生祭の時期になるな…。
今年はどんな追体験ができるのだろうか、楽しみだ。
─────
「ところで、カットウォーターメロンはアラミゴ塩を少々ふっかけるだけらしいが…どうして熟練者しか作れないんだ?」
「あー、ミニオンを相手にするからね。切られるのと塩をかけられるのが嫌なのか、逃げてしまうことがあるらしい。
捕まえておくのが難しいんだと」
そらスイカといえど切られるのは嫌だろうな。
0コメント