Past1:記された記録にて
一度だけ問うたことがあった。
「白い花は枯れないのか」と。
彼は答えた。
「死を超越すれば可能だろう」と。
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「あれ、ヘラのお母さんは?」
「おべんきょうで外に出かけてるよ」
「えー!ナキのお母さんが探してたんだけど、いないのね!?」
「うん、多分明日にならないと帰ってこないと思う…」
「ねーねー、何のおべんきょうしてるの?」
「分からない。お母さん、教えてくれないから」
本当に何も知らないのだ。
ただ必死に何かを得ようとしているということしか、幼い僕には理解ができなかった。
聞いても僕には教えてくれない。
「いないのなら仕方がないね。
じゃあさ、ナキと遊ぼうよ!」
「うん、遊ぼっか」
だけど、お母さんが膨大な魔法を使って帰ってくることだけは、周りの気配で知っていた。
─────
「族長、どうします?
いい加減この伝承に蹴りをつけねば我々白き猫の未来が残っていない。
親世代の私たちはともかく、未来を考えると子らを伝承と切り離さなければならない。
角尊とも連絡がつき対策は取ってくれてるものの、やはり誰かが超えねば」
「超える、か…。
きっと超えるべきは未来がある子らが適任だろう。
だが授かるものが少なく、ここにいる子らはヘラとナキのみだ。
しかもナキの一家はヴィエラとミコッテの混血となっている…確実に超えれるのはヘラのみだろう。
ジシャ…母であるお前が、それを許すか?」
「……死を超越することは、生きてこの先を見ること。
私はヘラにそれらを託すことができる覚悟を持っている」
「そうか。
ならばその予定のもと角尊に話をつけてきてくれ」
「分かりました」
その後は進展が早かった。
方法としては、災いが降った時に子どもの体を代償とし鎮めること。
その際に一時的に体と核の部分を切り離すという。再度核と体が合わされば、無事に死を超越したこととなる。
だが子どもの器は小さい。超越は可能だろうが災いが完全に途絶える可能性が高くもない。
最悪大人の器も必要だろう、そういう話に落ち着いた。
それまでにある程度の準備を始めることにした。
─────
まずはナキを始めとする混血の白き猫たちを外に出すこと。
親世代にはある程度の説明をし、受け入れてくれた者達から旅立って行った。
そしてあえて子どもには…ヘラには説明をしないこと。
これは完全に母のエゴだ。
「何だか静かになったね」
「そうだね、寂しくないか?」
「寂しいけど、1人じゃないから。へーき」
「そうかい」
大方準備が整ったタイミングで角尊の1人が『修行』と称して様子を見に来てくれた。
容姿故か、ヘラとはすぐに打ち解けた様子だった。
─────
「花が咲き乱れたぞ!赤い炎が舞い上がってる!」
「逃げれる道がもうないわ!」
突然やってくるのが災いだ。
止められないほどの火を広げ、人を家を焼いていく。
ヘラは自身を庇い瓦礫に埋もれた母を呼ぶ。
母はそれを無視しヘラを超越させた。
『術者が死と隣り合わせな状態なんだ、それで成功するはずがないだろう』
そんな聞き覚えのない声が聞こえた気がした。
「なれば私の器も足せばいい。
──これ以上被害を広げてなるものか!
後始末くらいはさせてちょうだい…!」
器が吐き出した対処方法は大雨を降らせ鎮めることだった。
だが術者が超越することはない。
贄となるヘラは僅かなエーテルと生命を維持したまま、分かたれた魂(エーテル)は個の意思を持ち、災いが静まった。
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しかしこれも確証とした話ではない。
ヘラという人物は消息不明だし、分かたれた魂もどうなっているのかが分からない。
集落外れの小屋で見つけた文書のみがここ一帯で起きた現象の真実を示すのだ。
誰が残したかも分からない文書だが放っておくわけにもいかず、サンソン大牙士は持ち帰ることにした。
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