Extra10:女の子は可愛い物も好き
ウルダハのマーケットには主にウルダハで活動しているクラフターやギャザラーが手掛けた品が多く並ぶことがある。
その中でもガウラは布地を見るのが好きだった。
色鮮やかで種類も多く、輝いているように見える。
輝いているといえば、採掘師が発掘してきた鉱石もそうだろうが…それよりも私は布地に目がいくことが多い気がする。
「おや嬢ちゃん、今日も見に来たんかい?」
「うぇ!?
あ、あぁ…」
「今日の目玉商品はフロンティアクロスだぞ?」
「フロンティアクロス?」
「上品な生地で元は暗めの赤なんだが、これまたカララントも綺麗に染み込ませることができてなぁ」
そう言いフロンティアクロスを出す店員さん。
「これで作るドレスも絶品だぜ!
そこのマネキンに飾ってるのが我らの裁縫師マスターが手掛けたドレスだ!」
言われてマネキンの方を見る。
流石マスターが手掛けただけあり、雑さがなく綺麗で上品さを感じるドレスだ。
袖や襟元レースにもこだわりを感じさせてくれる。
「おやおや、釘付けだな?」
そんな声が聞こえた気がしたが、私は声よりもそのドレスに夢中になっていた。
─────
結局いつも通り品を見るだけ見て今度は彫金師の運営している店に寄った。
こちらは用事があり、野営で使う打鉄が壊れてしまったので購入しようと思ったのだ。
在庫は十分あったようで無事に買うことができ、今日の買い物は終わった。
次にガウラは休憩を挟むため近くのゴールドコートへやって来た。
ここはこれといった施設がないので人気も少なく休憩をするにはうってつけな場所だ。
噴水の周りを囲うように設計されたベンチに座り、荷物を整理し始めた。
以前のヘムロックでの件からはあまり日が経っていないので少々足に負担がかかりやすい。
あの時は気づけば靴もなく裸足で極寒の地に居たので凍傷が特に酷かったのだ。
今日は動きやすく楽なダルマスカン・レザーシューズを履いているので負担は少ない方かもしれない。
「あれ、義姉さん?」
「ん?」
不意に呼ばれ顔を上げると、目の前に見慣れた人物が立っていた。
フ・アリス・ティアだ。
「アリスか、ここには用事があったのかい?」
「えぇまぁ、ちょっと裁縫師の店に。
義姉さんは?」
「私は買い物を済ませて休憩中さ」
「結構歩きますもんね…足の調子はどうですか?」
「この前よりはだいぶ良くなってるよ。
流石にまだ酷使はできないけどな」
「これを機にしばらくはゆっくりしてください…義姉さん、気づいたらいつも家も放ったらかしてどこかへ行ってるんですから」
「ははは!言うようになったねぇ?」
「俺は心配して言ってるんですよ!?」
コロコロ表情が変わるアリスが何だか面白くなってしまい笑うガウラ。
アリスは拗ねたような様子だ。
立ち話はなんだと思い隣に座るように言い、彼が座ったところでまた少し話をした。
「そういえば裁縫師になんの用事なんだい?」
「あぁ、リリンちゃんの服が解れてしまって。
服の買い物も最近はあまりしていなかったから新しい物を買うのもありだなと思ったんですよ」
「なるほどね、リリンは可愛いからどんな服も似合いそうだ。
…ということはリリンも来ているのかい?」
「はい!
この後合流して向かおうかと。
義姉さんも来ますか?」
「んー、私は今日は帰るよ。
長居してるとヴァルが怒っちまう」
「あはは…」
それから世間話を挟み、アリスは目的地へ向かった。
後ろ姿が見えなくなるとガウラもその場を後にしウルダハ・ランディングへ向かった。
─────
「あ、お兄ちゃんこっち!」
「おまたせリリンちゃん!
さ、店に行って服を見よう!」
リリンと合流したアリス。
早速裁縫師の店に寄り店員さんの話を聞きつつ布地や服を見ていく。
「おや嬢ちゃんもそのドレスに釘付けかい?」
「えぇっと…」
「リリンちゃん、そのドレスが気になるのかい?」
「う、うん…可愛いなぁって」
「これにする?」
「いいの?」
「もちろん!」
「気に入ってくれたならマスターも喜ぶだろう!
毎度あり!」
店員さんがマネキンから服を脱がしリリンのサイズに合うように調整していく。
慣れた手つきで修繕していく姿は流石プロだと思わせるものがあった。
「そういえば店員さん。
さっき、嬢ちゃん[も]って言ってましたけど」
「あぁ、数時間前にも女性のお客さんが来ていてね。
そこの嬢ちゃんと同じように釘付けになってたよ」
「買わなかったんですか?」
「あのお客さんはいつもそうさ、あれは買い物を目的にしていると言うよりも[布地の鮮やかさに目を惹かれ見に来た]って感じだな」
「へぇー…」
「あれだけ綺麗な[白い髪]だから、どの色も似合いそうなんだけどな」
「白い髪…」
「あぁ、この辺じゃ珍しい髪色だよな!
ちょっと小柄なミコッテの姉ちゃんだけど、あのクールさは女性のファンが多そうだよなぁ。
男の俺でもかっこいいと思うくらいだ」
小柄なミコッテの女性、白い髪。
そしてかっこよさがある…なんだか見知った人物を感じさせるのは気のせいだろうかと思いつつ、店員さんの話を聞いていた。
「あぁ、珍しいといえばオッドアイだな。
あのお客さんもそうだった」
「……え?」
─────
「おかえり」
「ただいま」
手短に挨拶をするガウラとヴァル。
ガウラの個人宅で双剣手入れをしていたヴァルに紙袋手渡す。
何も頼んでいない気がするんだが…そう言いたげなヴァルだが、素直に受け取り中身を開ける。
入っていたのは武器の手入れ用に使う小物だった。
確かにヴァルが今使っていたそれもボロボロになりつつある。
「よく、見ていたな」
「私は観察も得意なほうさ。そいつもそろそろガタが来るだろうと思ってね」
「感謝する」
「どういたしまして」
買ったものを整理しながら、ガウラは今日の買い物の話を始めた。
採掘師の鉱石、彫金師と錬金術師がなぜか喧嘩をしていた話、カララントの一部在庫切れ。
裁縫師の布地の話。
「それで今日の目玉商品はフロンティアクロスってものだったみたいでな、あれがまた肌触りも気持ちいいのさ」
「フロンティアクロス」
「裁縫師マスターがその布地を使ってドレスを作ってたんだが、あれがまた上品で可愛らしくてね!
ああいうドレスは憧れるよなぁー…」
嬉々として話すガウラを見てみると、彼女の目が輝いて見えた。
あぁそうだ、彼女も女の子なんだ。
「買わなかったのか?」
「買わなかったよ。
いやぁ、可愛いんだよ?可愛いけど…私には似合わなさそうだ…」
そう言いながら苦笑いをする。
女の子だから似合わないことはないだろうけど、目の前の彼女はいつも動きやすくクールな服装ばかりだ。
欲が出ても少々の抵抗が邪魔したのだろう。
「……今度、買いに行こうか」
「うん…え゙!?
いやいいって!似合わないから!」
「どうだか、着てみなければ分からないぞ?」
茶化すように言ってみる。
恥ずかしいのかなんなのか、少し顔を赤くしもじもじしている。
この様子はヘラだった頃に1度見たことがある。
[欲しい]の一言を言うのに戸惑っているやつだ。
もう少し言葉を言ってみよう。
「あたいは似合うと思うのだが」
「ゔ…」
「それにあたいも裁縫師の店に行ってみたくなった」
「………そこまで言うなら、今度一緒に行こうか…」
釣れた。
もにょもにょとまだ何かを呟いているが、今回はいいだろう。
スケジュールの確認をして予定に組み込んだ。
─────
数日後、ガウラとヴァルが裁縫師の店にやって来た。
新作のフロンティアドレスになっている。
「お、今日は連れもいるのかい」
「あぁ、また見に来たよ」
「ホントに好きだねぇ!
買ってくれりゃこちらももっと嬉しいんだが?」
冗談っぽく言われ茶化し合う店員さんとガウラを見て、ヴァルはこんな一面もあるのかと再確認した。
「そうそう、嬢ちゃんが以前釘付けになってたフロンティアドレスはその日に売れちまったよ」
「おやそうなのかい」
「けれど運がいいのが嬢ちゃんだ。
今日ちょうど新作のドレスができあがってな?」
「…このマネキンに着せてるやつですか?」
「お、黒い嬢ちゃんも目が行ったかい?
そうさこれがその新作さ!
今回はカララントを使用していて、イシュガルドから取り寄せたルビーレッドに染め上げたんだ」
なかなかいい色をしているだろう?
そう言う店員さんの表情がとても笑顔だ。
ふとガウラ方を見てみると、案の定釘付けになっている。
可愛いものに目がない、意外な一面だ。
「そんなに見ていたら、ドレスに穴が空くぞ」
「!?」
無自覚だったのか、ガウラはびっくりしたようで顔を赤らめそっぽを向く。
それがなんだか面白く感じた。
「店員さん、そのドレス買わせてください」
「ちょ、ヴァル!?」
「あぁ構わんよ!着るのはそっちの白い嬢ちゃんだろう?」
「お願いします」
「お願いしなくていいって!?」
「はっはっは!
さてはこういう可愛いものは着慣れてないタイプだな?
問題ないさ、裁縫師の俺が保証する。
絶対に似合うってな!」
─────
サイズが合うように修繕し、完成した物を購入した。
個人宅に帰るとドレスをガウラに渡し着てみるように促した。
渋々更衣室に向かい着替え始めるガウラ。
「………可愛い、けど…本当に似合うのか…?」
それから数分後、更衣室から出てきたガウラは恥ずかしいのか階段の踊り場から顔だけを覗かせている。
ヴァルが手招きをするとそろそろと出てきた。
「似合うじゃないか」
「着慣れてないからすごく恥ずかしい…」
「いつも通り堂々としていればいいのに」
「無理だって!」
もう着替える!
そう言ってすぐに更衣室に戻ってしまった。
着替え直した後のガウラはなんだか少し疲れた様子だった。
─────
結局あの後フロンティアドレスがどうなったかというと、あまり着ていないというのが表向きな結論だ。
着る場面が少ないと本人は言うものの、誰もいないタイミングになると鏡の前で体に合わせて見てみてるらしい。
それ以外時は丁寧にミラージュドレッサーに仕舞われている。
ちなみに彼女の可愛い一面が他にもある。
「………」
ヴァルが静かに見つめる先には、少し前にリリンから頂いたというモーグリのぬいぐるみを抱きしめ昼寝をしているガウラだった。
改めて、彼女は女の子なんだと思わせた出来事だった。
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