Main2-11:正解のない道を聞く

住む者が違えば、文化も変わり、私も知らない価値観へと変わる。
それを見事に体現してくれたのは、目の前の小さなうさぎ(レポリット)だった。

レポリットの知る[人間]は、古代人。
大きな身体、全身を覆う様な長いローブを着るあの古代人だ。
彼らはアーテリスからの避難民も[そういう人たちが来る]と解釈してしまい、全てに施設にあらゆる動植物をその基準で考えてしまった。
それはほんの僅かなズレ。
今まで月にアーテリスに住む者がいなかったこと…たったこれだけのことで、価値観というものは変わってしまうのだ。
結局、それの解決策としてウリエンジェがレポリットたちと月に残り互いに教え合うということになったのだった。

─────

イルサバード派遣団に報告を済ませ、一行はオールド・シャーレアンに帰還した。
帰還する手前でアリスが倒れたことを聞き様子を見に行けば、彼の気配は見事に変わっており、原因もすぐに分かった。
カ・ルナ・ティアが目を醒ましたのだ。
自身を[保険]と例えた彼は、見定めを行うために私たちと同行すると言った。
見定めとは、枷を外すことにより行き過ぎた力の制御ができるのかどうか。
一族でなくとも、力というものは持ちすぎると自身の命を落とす危険があるものだ。
白き一族の純血は私とヘリオしかいない。
混血のナキは、様子を見るにごく平均的な力だろうと思う。
魔力は確かに高いが、純血ほどではないので許容範囲内だ。
問題は黒き一族。
こちらは今も純血が多く、彼らが一気に力を解放させるのは危険が伴う。

オールド・シャーレアンの探検手帳にチェックを入れながら、ぼーっと考える。

「懐かしい気配がしたと思ったんだけど、ボクの勘違いだったかね」
「ビャッ!!」
「っはは!そんな驚き方はニアでもしなかったよ?」

逆立った尻尾をそのままに振り返ってみると、見覚えのあるヴィエラの男がいた。

「カリアかい…ビックリさせないでおくれ」
「いやぁ、そこまで驚くとは思ってなかったんだけどね?
それにしても本当にちっちゃいなぁ、あぁでもニアよりは少し背が高いか?」
「……ニアを、知っているのか…!?」
「トモダチだからねぇ。
あぁそうか、ボクのようなヴィエラの寿命とミコッテの寿命は違うんだったっけかな」
「………」
「それじゃぁ、ニアのトモダチだったボクから、1つ話をしようかな」

爆弾発言を連投するカリアを凝視しつつ、言葉を待つ。

「あの子が力を恐れた理由は、あの子が持っていた超える力(特別な力)で未来を視たからだ。
あの子の未来視は、数時間後の話じゃないよ。
数百年先の未来を視るんだ」
「数百年だと!?
ミコトも未来視の超える力を持っているけど、それよりも…」
「ミコト・ジンバ…そうだね、彼女よりも強い力だったよ。
故意的に視る事ができないのは、同じだけど」
「ニアは何を視たんだい」
「……[崩壊した森]と、[キミの姿]だ」
「は……?」

その言葉の瞬間、視界が揺らぐ。
超える力…過去視が発現したのだった。

───── 
────
───

『……あの未来視に映っていた人は、私かと思っていたのですが、私ではなさそうでした』
『じゃぁ誰なんだ?』
『分かりません。
ですが、私にとても似ている…姿だけでなく、あの目も、魂の色も。
あぁ…ですがなんてこと……。
あの子が本当に、全てを燃やしたと言うのですか…』

『あの森を見つけねば。
そのためには知識も足りない。
術式の知識ではなく、世界の知識が…。
旅に出て、聞いて、感じて、考えて…その結果、本当にあの未来視に繋がるというのであれば、私は最善を尽くし未来に選択を託します』
『どうやって?』
『……まずは貴方に。
きっと、[私たち]はどう形が変わってもここへ帰ってきます。
その時に、聞かせ、感じてもらい、考えさせてあげてください。
[何のために力を使うのか]と。
もう1つは、この街の外に託します』
『ボクでいいのかい?』
『貴方だから頼むのです。
私の大きな力を恐れずに、友達になってくれた貴方に』

───
────
─────

「─────い、おーい」
「……!」
「あぁよかった、僕の話がつまらないのかと思っちゃったよ」
「いや、すまない。
ちょっと、視えてしまって」
「ふーん…」
「…お前にも、色々託していたんだな」
「ニアは心配性だからね。
それで……[燃やした]のか?」

きっと、カリアは答えを求めている。
ニアの視たものが、真実かどうかを。
何百年という長い間、こうしてここに[私たち]が帰ってくるのを待ちながら。

「……あぁ、そうらしい。
生憎、私は11年より前の記憶がないから、詳細は分からない。
けれどニアの作った集落で視た過去視が真実なら、一族とあの一帯を燃やし崩壊させたのは、私だ」
「………素直に答えてくれるんだね」
「答えを聞く義務が、お前にはあるだろう。
何百年も待っていてくれたんだから」
「そう、そうさ。
ボクはずっと待った」
「悪かったね」
「構わないさ!
案外、この何百年という時間は楽しかったからねぇ。
…さて、過去視で視たならもうボクの質問は分かってるだろう?
ねぇ、ガウラ。
キミはその力を、何のために使うんだ?」

私は既に答えを持っている。

「私は、私を信じてくれる人たちのために力を使いたい。
……は、綺麗事だね。
[生きるため]に使いたい。
残念なことに、私に生きてほしいって願ってる連中が多くてさ。
だから私は生きるために最善を尽くして力を使いたい。
ニアが託してくれた力も、ハイデリンがくれた超える力も」
「……この答えには、正解はないんだよ。
ボクが願ったことは、ニアと同じ道ではなく、後悔しないで人生を全うしてほしいことだけ…行き過ぎた力で無駄死にだけは、願っていない。
うん…キミならきっと問題なさそうだ。
だって、仲間がたくさんいるからね」

そう言ったカリアの表情は、とても満足しているように見えた。

0コメント

  • 1000 / 1000