Extra26:風邪

ガウラの自宅。

ヴァルはいつものように早めに起き、朝食の準備をしていた。

今日はガウラもヴァルも珍しく予定がない日。

1日ゆっくりできるだろう、何をしようかと考えながら、ヴァルは手際よく準備を進めていた。


……ガタンッ!


急に2階の方から何かが倒れた音がした。

ガウラが起きたのだろうか?

それにしては大きな音だと思ったヴァルは、付けていた火を止め2階に様子を見に行った。


ーーーーー


「ガウラ?」


2階にいるであろうガウラを呼んだが返事がない。

ガウラの部屋の扉をノックし中に入ると、床にうつ伏せで倒れていたガウラがいた。


「ガウラ!?」


ヴァルは駆け寄りガウラの体を起こす。

その顔はどこか赤みを帯びており、浅い息遣いだ。

嫌な予感がしたヴァルはガウラの額に手を当てた。


「…すごい熱じゃないか…!」

「ぅ……ヴァル…?」

「目を覚ましたか。

熱があるみたいだが、大丈夫…ではないよな」

「クラクラすると思ったら…熱か…」

「とにかくベッドに行くぞ、ここだと冷えて悪化してしまう」


そう言ってヴァルはガウラを担ぎベッドへ向かった。


ーーーーー


「熱と目眩、他に調子が悪いところはあるか?」

「いや、大丈夫…。

喉は痛くないし、咳もないかな」

「分かった。

氷枕を作ってくる、横になって待っててくれ」


ガウラは頷くとベッドに潜った。

ヴァルは早速氷枕を作りに1階へ降りた。

2階に戻ってくると、ガウラは寝てしまったのか、小さく寝息を立てている。

額に乗せる用の氷袋も作ってきていたので、それを額に乗せ様子を伺うことにした。

ひんやりと気持ちいいのか、熱で魘されていたガウラは少し穏やかそうな表情になった。


(それにしても珍しいな、ガウラが熱を出すなんて。

ヘラの頃でも滅多に体調を崩さなかったのに)


ふと、ヘラだった頃を思い出す。

ヘラの頃は本当に元気だった。

体調を崩したのなんて、数えられる程度だったように思う。

ガウラとなってからでも、体調を崩したことはほぼなかったはず。

エーテルの枯渇で調子が悪い時はあったものの、熱を出したり風邪を引いたりなんてことは滅多になかった。


そんなことを考えながらガウラの頬に手を当てる。

熱により赤く火照った顔は、未だに熱い。


「……ヴァルの手、ひんやりしてる…」

「起こしてしまったか?」

「いや、大丈夫…」

「今は寝ておけ、今日は予定もないんだから」

「悪いね…」

「問題ない」


するとガウラの目が泳ぐ。


「なぁ、ヴァル…」

「ん?」

「……寝付くまで、ここに居てくれないか…?」


どことなくよそよそしい声色でガウラが尋ねる。

甘え下手な彼女らしい反応だ。

ヴァルはそんな彼女の仕草に微笑み、頷いた。


ーーーーー


30分くらい経っただろうか。

ガウラはぐっすり眠っており、呼吸も安定している。

熱が長引く様子ではなさそうだと、ヴァルは安心した。


(早く元気になるといいな…)


ーーーーー


それから1日後、ガウラはよく眠れたからか熱も下がり元気になった。


「昨日はごめんよ、世話になったね」

「いや、問題ない。

それよりも体調を崩したことに驚いたよ」

「ははは」

「まぁ、大事にならなくてよかった」

「ヴァルの看病のお陰だよ、ありがとうな」


伝染すことがなくてよかったと、ガウラは笑ってそう言ったのだった。

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