Past3:似た者同士の家族

しまった。  
そう直感が訴えていた。  
その直後に大きな一撃をくらい、腹を切られた。  
だが目の前の敵は逃せない。  
その思考だけで反撃し、何とか敵の討伐/捕獲を成功させた。

「………ッ、…(流石に、疲れた…)」

血がだらだらと出し立ったままその場から動けなくなったガウラを残った不滅隊が応急処置をし、屯所へと向かった。

───

次に目を覚ますと医療室だった。  
なかなか身体に力が入らず、痛みだけが生きていると思わせてくれた。  
腹を切られたのもそうだったが、腕や足、頭にも包帯が巻かれていたので派手にやってしまったんだなと思う。

「あ、お目覚めになりました?」  
「……医療室か?」  
「そうですよ。  
あんまり無理せんで、しばらく横になっててください。  
功績は得られたけど、無茶をされちゃ元も子もないですやん」  
「う…悪かった」  
「分かればよし。  
もう少し休んだら外に出ましょ、と言っても屯所の前ですけど。  
ずーっと部屋の中じゃ面白くもないし、外の空気吸いたいし」  
「分かりました、流石に言葉に甘えておきます」  
「うむ」

そうして横になってる間は治せる限りの治療を受けた。  
傷は大体塞がったが、なかなか力が入らない。  
これは久しぶりに失態を犯したというものだろう。
それから約1時間後、医療員と共に外の空気を吸いに屯所前にやって来た。

───

簡易的な椅子に座り不滅隊の様子を見ていた。  
時々隊員が話しかけてくるので飽きることはない。  
稀に立ち上がっては少し伸びをして…。

「ガウラさん、どうしたんですか?その怪我」  
「げっ…アリスか」

遠目で誰かが走っていったなぁと思った瞬間だった。  
いつの間にか傍に来て、心配そうな顔をしていたアリス。  
なんというか、この状況ではあまり会いたくない人だな。

「大丈夫なんですか?」  
「平気だ、…ほらさっさと行け。なにか用事があったんじゃないのか?」  
「いえ、忘れ物を取りに自宅に帰るところだっただけです」

こいつはいつも通りって感じだな。  
でもなかなか去ることがないアリス。  
その顔はだんだんしわくちゃになっていく。考え事でもしてるのか?  
そう思っていたら背後へと回られた。

「なんだい、後ろに回って」  
「ちょっと失礼しますね」

その言葉を言われたと同時に視界が傾いた。  
踏ん張ろうとするにも大して足に力が入らないのでそのまま崩れた。  
今、何された?

「な、何するんだいいきなり!」  
「痩せ我慢してるでしょ」  
「不意をつかれたら誰だってこうなるっての!膝カックンしただろ…!」

何だか不服そうな顔で目の前にしゃがみ込むアリス。

「普通の状態の人は、膝カックンしても、バランスを崩した瞬間に踏ん張って、倒れるのを踏みとどまりますよ?  
それが出来ない状態なんて、相当ダメージがデカいんじゃないんですか?」  
「だ、だったらなんだって言うんだ!  
お前には関係ないことだろう!?」

ヤケになってしまいどんどん声が大きくなる。  
だから嫌なんだ、こういう時に知り合いと出会うのは。

「……自分自身じゃロクに回復できてないんでしょ」  
「あ"?」

何か小言を言われた気がする。  
何とか立ち上がったのも束の間で、見計らったかのように一瞬でお姫様抱っこをされた。

「な…おい!?」  
「怪我人は大人しくしててください」  
「お、降ろせバカ!私は平気だ!!」  
「立ってるのもやっとの人のセリフじゃないです」

少々不機嫌気味なアリスは近くにいた医療員に一言声をかけて歩き始めた。  
恥ずかしい上にヤケクソになっている自分がいる。

「ふっざけんな、いいから、降ろせッ!」  
「いってぇ!!?」

ゲンコツ、クリティカルヒット。  
そして人のことは言えないがこいつもなかなかに石頭だ、自分にも多少ダメージが来た。

「危ないですってば!?」  
「いいから降ろせ!なんなんだ今日は!?」

手で押しのけ降りようとするが、やはり男女の力差に怪我も重なってあまり力は入っていない。

「もー!危ないって言ってるでしょ!?」
痺れを切らしたアリスが今度は俵担ぎに切り替えた。  
いよいよ降りれなくなったが、既にヤケクソになっているガウラ。  
ジタバタと暴れる様は抱っこを嫌がる猫のよう。

「…この状態を見てヘリオはなんて言いますかね」  
「お前…」  
「いつも人には無茶するなって言って、ガウラさんも無茶してるじゃないですか。  
今日見た事はヘリオには黙ってますから、大人しく運ばれてください。  
目的地に着いたら回復魔法をかけますから」  
「それならその場でもできただろう…」  
「出来ないからこの状況なんですよ。  
俺、今アーマリーチェスト持ってないんで」  
「………は?」

今日1番の間抜けな声だったと思う。  
冒険者だと言うのにアーマリーチェストを忘れてきたってのか?こいつ。

「だから今は俺ん家に着くまで大人しくしててください」  
「……冒険者だってのにアーマリーチェストを忘れるやつがいるかい、普通…」  
「自分を棚に上げてる人に言われても痛くないでーす」  
「んだとこの!!」  
「いてぇ!!」

背中をバンバン叩かれるアリス。

「それとこれとは話が違うだろう!」  
「だからって叩かなくても!」  
「お前がムカつく言い方するからだろ  
!?」

───

そんなやり取りをしているとアリスの家にたどり着いていた。  
何だか一気に疲れた気がする。  
椅子に座らせてもらい、彼が回復魔法を使うのを待つ。  
包帯をそっと解かれて怪我を見た彼は、少し複雑そうな顔をしていた。

「ガウラさん、1つ撤回して欲しい言葉があります」  
「…なんだい」  
「『お前には関係ないだろう』と言ったあの言葉、撤回してください」

そう言われガウラも複雑そうな顔をした。

「ガウラさん、貴方は義理とはいえ俺の姉さんなんです。  
家族を失って1人だった俺に出来た姉なんです。  
貴方が俺を心配してくれるように、俺もガウラさんを心配してるんです」  
「……」  
「関係なくないんですよ」

ここまで言われたのは初めてだった。  
あぁそうだ、コイツも私と同じなんだ。誰かを失うことが、大嫌いな連中だ。

「…悪かった」

それから暫くは無言のまま治療を受けた。

───

念を押して『次はアーマリーチェストを忘れるな』と言い、一旦不滅隊の屯所に戻ったガウラ。  
ここから自宅のあるラベンダーベッドは若干距離があるので、宿屋を手配してもらいそこで一晩過ごすことになった。

「正直、もっと力があればこうはならなかったんだろうな」

手のひらを上にし腕を伸ばす。  
頭の中で詠唱をするが、どうも上手く想像できずロクに魔法を出せなかった。  
糸がもつれている感覚。  
ここまで魔法が苦手だったとは…。

「……弓と斧だけでは限界がある。  
どうにかしなきゃな…」

───

そんなことがあったような気がする1年前…いや、1年前だったか?  
何にせよ過去の話だ。  
なぜそんなものを思い出したかと言うと、まぁ似た状況になってしまったからなのだが。

「あああ"…」  
「まーた派手にやってしまいましたなぁ、女性や言うのに大胆に行動するから、傷まみれですやん」  
「傷がつかない戦闘があるなら逆に聞きたいくらいですよ」  
「それは私も聞いてみたいですなぁ」

『それで、今日はまたあのミコッテの青年に世話なるのかい?』  
そう言われて浮かんだ顔はアリスだった。  
でも確か今日は任務でダンジョンに入っていた気がする。

「いやぁ、あいつはあいつの用事があった気がするから、来ないんじゃないですか?」  
「おやそうなのかい」  
「別の奴なら来そうだが」

けれど前と違う。  
今のガウラは多少なりとも自己回復はできる。  
時間はかかるけど、もう少しここで回復させてくれと頼み、暫く集中することにした。

───

「なんだかズキズキ痛むなと思えば、なんだその包帯は」  
「いやぁ、ちょっとヘマしちゃって」  
「の割には重傷だったと聞いたが」  
「生きてるから大丈夫さ」

やはり誰かは来た。  
今日は任務帰りのヘリオ。  
双子だからなのか何なのか、ズキズキする感覚があったようで彼女の所へやってきたんだそうだ。

「ったく、もう少し自分を大事にしてくれ。  
……心配する」  
「気をつけるよ」  
「…『お前には関係ない』、なんて言おうとするなよ  
関係ないわけがないんだからな」  
「……ふふ、分かった分かった」

何で笑われたんだろう?  
そう聞きたそうな弟の手を掴み、『帰ろう』と言った。  
ヘリオは相変わらずの無表情っぷりだが、素直に従った。

どいつもこいつも、同じことを言うなんて。

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