Past4:愛用している装備
エレメンタル・ブーツ。
六属性が不安定なエウレカの地で重宝された装備の1つだ。
エレメンタルだけでなくエーテルの補助もできるため、体内エーテルの少ない私には尚更必要なものでもあった。
見た目も良いので、頭/胴/手/脚/足の中でも足装備を1番使っている。
「かといって、酷使すると不調を起こすんだよな…」
そう言ってボロボロになってしまったブーツを抱え呆然をしていた。
───
「ホロスコープ・ヘリオス!」
その声と同時に星々が輝き仲間を回復させていく。
ダイアーナルセクトで回復補助をしているのはガウラだった。
討伐依頼で仲間と共にやって来たのだが、なかなかの強敵で時間がかかっているようだ。
ヒーラーで来ていたのが仇となり、徐々にエーテルが減っていってるのが自身でも感じていた。
「奴、力を上げすぎだ!
全員を庇ってられるほどの力が私ももうないぞ!」
「運命の輪でも限界がある!」
「牽制、入れるよ!他の軽減もお願い!」
各々が軽減とヒールを準備する。
だが敵は火力上昇し放った力はそれを超越した。
大きな爆発…何とか耐えていたのは庇われていた占星術師のガウラと上乗せでインビンシブルをしてノーダメージで立っていたナイトのみだった。
「あ、ありがとう」
「気にするな。
だが奴も力を使い切ったのか疲れているようだ。
畳み掛けたいところだが…仲間が」
「…私が何とかしよう」
「何?」
「まだ手があるって言うことさ。
ただその間、アイツの気を引き付けておいてくれると嬉しい」
「相分かった。
……敵さんよ、私たちはまだ戦えるんだとよ。
こっち向けぇ!挑発!!」
ランパートを使い防御力を上げたナイト。
彼が敵を引き付けたのを見届けると、ガウラはカードを1枚引き自身の魔力を補助させた。
「悪いけど、まだ死なれちゃ困るんだ。
…星よ、海よ。我の願いを。
命に輝きを!星天開門!!」
満天の夜空が輝く。
星々は地に伏せる仲間に力を与え、彼らはまた立ち上がった。
直後に聞こえてきたのは竜騎士のバトルリタニーと吟遊詩人のバトルボイス。
彼らは何かと気が合うのか色々な技が息ぴったりと決まる。
遅れて力が沸く感覚があると思えば、モンクが桃園結義を放っていた。
黒魔道士も自身の足元に黒魔紋を敷き攻撃に備えている。
攻撃職のメンバーが波に乗ってくれたので、それに乗じてドロー、スリーヴドローを駆使し火力を上乗せしていった。
だがまだ何故か目がチカチカしている。
その様子に疑問を持ったのは、ファウルを放った黒魔道士だった。
───
「大丈夫ですかい」
「え?」
「なんだか調子悪そうで」
「あー、ちょいと無理してしまった感覚はあるね。
休めば大丈夫とは思うよ」
無事に戦闘が終わり、各々が自由行動となった。
やはり竜騎士と吟遊詩人は仲が良いのか2人で報酬の見せ合いをしている。
ナイトと暗黒騎士、モンクは学者の妖精を見て何かを話しているようだ。
そんな中、いつの間にかガウラの横に来ていたのが黒魔道士だ。
「……エーテルの持ってる量、多くないのか?」
「…たぶん。」
「よくそれで占星術師を出してくれたね、この仲間だとヒーラーに回れたのはモンクさんだったろうに」
「構わないさ、戦闘に得意不得意もないんだから。
それに私はタンクや攻撃職だけでなく、ヒーラーもできるようになりたいから」
「なぜ」
「…守ることができるなら、何にでもなりたいからさ」
「…………」
黒魔道士の表情は深く被ったとんがり帽子で見えないが、いい顔をしていないのはなんとなく伝わってきた。
皆が地点から脱出していったのを見て自分も行こうかと立ち上がった時、目眩を起こしたような感覚に見舞われた。
それを片手で腕を掴み支えたのは、未だに表情が見えない黒魔道士だ。
「フラフラじゃないか」
「あ、はは」
「脱出したら、再度合流しよう。
案内したい所がある」
「…場所は?」
「クガネの第一波止場」
「わかった」
───
そう言われて約30分後、黒魔道士は相変わらずの格好で第一波止場にやってきた。
ガウラは本職の吟遊詩人に戻っている。
「…本職?」
「あぁ、そうだよ」
「詩も魔法の一種と聞いたけど、疲れるんじゃないか?」
「まぁ、それに関しては試行錯誤して環境エーテルも利用してるから」
「場所によっては酷いことになりそうだな」
「ごもっとも」
「…尚更、紹介するにはうってつけか」
「?」
「着いてきてくれ、今からエウレカのヒュダトス帯へ行くから」
「……へ?」
間抜けな返事をしてからまた30分後、エウレカのヒュダトス帯へ到着した。
相変わらず調査隊は忙しそうにしている。
共に調べられる場所は全て終え、自分にはもう無縁だと感じていたこの地へまた来るとは。
そう考えているのを他所に黒魔道士は1人の研究者の元へ歩いていった。
「はい、なんでしょう?」
「あそこにいる吟遊詩人の装備を新調したい」
「構いませんが、対価となるヒュダトス帯のクリスタルはお持ちですか?」
「あぁ、ある」
「こんにちは、ヒュダトス帯のクリスタルなら私も多く持ってるよ」
「それは助かります。
では装備をお持ちしますのでお待ちくださいませ」
そう言って研究者は小屋へと入っていった。
未だに状況を掴んでいない様子のガウラに、黒魔道士は話し始めた。
今から新調する装備にはエレメンタル…六属性が込められていること。
エーテルの補助もできるため、ある程度のエーテル酔いは避けられるだろうということ。
環境エーテルに左右されることなく力を存分に出せるだろうということ。
「何故そこまでしてくれるんだい?」
「……俺も、体内エーテルが少ない方だから。
ここに来てエレメンタル・コートを新調してもらったんだ」
「そうだったのかい」
「…元々は、あまりエーテルに左右されないだろう戦士で活動していた」
「どうりで力があると思ったよ」
「これで、貴女もエーテルに困らずに済めばよいが」
「きっと良くなるさ」
「あぁ」
───
それからと言うものの、エレメンタル装備は重宝している。
詩も環境エーテルに頼らず使うことができるようになり、ある程度なら酷使も問題なくなった。
けれど寿命というのもあるようで、補正が効かなくなってきたのか疲れが見え始めていた。
「無理しちゃったか…」
「…定期的にメンテナンスをすることだな」
「?」
「久しぶりに見かけたと思えば、また疲れた顔をしている」
「あはは…。
なかなかエウレカに向かう時間が作れなくてね」
「なるほど。
エレメンタルの補正/メンテナンスならダークマターを使うと良い。
あれは何かと便利な素材だ」
「それでも補えるのか」
「エウレカで直にメンテナンスをするよりは補正の数値も低いけど、また暫くは使えるはずだ」
「分かった、行けない時はそうさせてもらおう」
それから暫く2人で話をしていた。
彼は知らぬ間に黒魔道士から錬金術師に転職していたという。
何があったかはあえて聞かなかったが、生き生きとしているので問題はないだろう。
その合間に手持ちのダークマターで装備の修繕をしておいた。
ある程度のエレメンタルを補正できたので、これでまた使えるはず。
「貴女はこの先も戦士で居続けるんだろう」
「そうだろうね」
「きっと茨の道だ。
男である俺が折れてしまったのだから尚更だろう」
「あぁ、出会いもあれば別れもあった」
「それでも歩み続けるならば、俺は貴女に1つ言葉を送ろう」
「なんだい」
「…死ぬなよ」
「…あぁ、もちろん。
貴方も死ぬんじゃないよ」
「あぁ」
───
話し終えた頃には既に日が傾き始めていた。
別れを告げ去っていった彼の背中は何故か小さく見えてしまった。
彼はきっとこの先も、錬金術師として歩むのだろう。
彼は物知りだから研究も捗りそうだ。
「……また、眼の方も診てもらわなきゃな」
彼女も錬金術師にお世話になっている身なのでまた再会できるだろうと予想し、次の任務へと向かっていった。
黒魔道士から錬金術師へと変わっていた彼の義足に使われる金属は、夕日に反射しキラキラと輝いていた。
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