Past5:とある隊員の冒険録
戦場ギムリトダークを駆ける白。
瞬時に放つ黒魔法は凄まじい威力で敵を倒していく。
彼が向かう先は英雄のいる所。
これはある白き一族の最期の冒険録である。
───
「双蛇党1班、黒渦団3班と合流!
これより進軍を開始する!」
「こちら不滅隊6班!ドマ連合軍へ伝達を向かわせる!」
「ドマの忍者部隊、蒼天騎士団と合流する」
あちらこちらから様々な作戦が聞こえてくる。
そんな中に居たのは戦場には目立つだろう白い肌と髪を持つヴィエラだった。
英雄と似ているような色白さだが、生憎その英雄は未だ合流できていない。
彼の名はエイナル。
白き一族のヴィエラである。
所属は不滅隊、黒魔道士部隊のメンバーとして作戦に参加している。
「エイナル、行けそうですか」
「あぁ、我が一族の誇りでもあるこの魔力を、存分に出したいところだ」
「ふふ、まだまだ元気そうですね。
…貴方の一族の話、聞いてみたかったものです」
「気が向いたら、話そう」
そう話し合っていた相手も数時間前に戦死している。
それくらい、この戦場は凄いものだった。
「ここを一気に突破する!道を開けるんだ!」
「……黒魔道士部隊は後方へ撤退を始めてくれ。その中で足の速い者はもうすぐ辿り着くであろう英雄殿と合流してくれ」
「足が速いとなると、エイナルか」
「私が?」
「あぁ、頼めるか」
「…分かりました。この先にいるヒエン殿達と合流するように伝達をすればいいんだな?」
「あぁ」
「では作戦を決行する!
この道を開けつつ1班ずつ撤退を開始!」
───
それからどれくらい走っただろう。
思った以上に探し人の姿を発見できずただただ走り回っていた。
道中で遭遇した敵軍と交戦しダメージも増えてしまっている。
「やられた腹が痛いが、後ろを追ってきている敵に追いつかれても困る…交戦するか…?」
「しゃがめ!」
「!?」
その声を聞き咄嗟にしゃがむ。
3連矢が上を通り後ろの敵に命中した。
「何とかなってよかった…、なぜ1人でこんな所に!?」
「貴女は…」
「冒険者部隊に配属しているガウラ・リガンだ」
『英雄の名前はガウラ・リガンだそうだ』
「英雄殿か…?」
「そうらしい、あまりそう呼ばれたくはないが」
「……(待てよ、リガンの苗字…あのジシャの娘か?
だがエーテルも感じなければ名前も違う)」
「どうした、痛むのかい」
「いや、問題ない。
貴女に伝達を頼まれていてここまで来た」
「私にか?」
そうして彼は伝達をし任務を完了させた。
だが彼も白き一族。エーテルを見る力も高いもので何かを感じているようだ。
敵が近づいてきている。
「………、」
「敵が来ているな」
彼女も気配に気づいたのか?
「ヤ・シュトラのようなエーテルでの感知なんてものはできないけど、生憎耳がいいんでね。
足音と視線を感じるよ」
「数もまぁまぁいるだろう」
「倒さないと通してくれないだろうか」
「……」
考えてみる。
確かに倒さなければ進ませてくれないだろう。
だが彼女を早くヒエンたちの元へ向かわせなければならない。
ならば肉壁となり彼女を進ませるべきだ。
それに彼女の苗字…本物であれば生きて娘に会わせてやりたい。
「娘よ、私は貴女を生かして先へ進ませてやらねばならない」
「私も貴方も生きて帰るんでしょう」
「あぁそうだね」
「私が一度貴方を回復させよう。
貴方さえ動ければ2人で突破できる」
そうして彼女は天球儀を取り出す。
だがエーテルの少ない彼女に何ができる。
いや何かができたとしても時間がかかる。
目に見える未来。
時間が足りない。
「おい、何をする!」
気づいた時には彼は天球儀を奪い取り前へ出ていた。
彼女の持つ武器は重い。
武器の重さ?
いいや違う…この重さは彼女の歩んだ道とこの武器が作られた場所での激闘を制したことへの誇りだ。
「デネブか」
「その武器を知って…?
いやそんなこと今はどうでもいい、返してくれ!」
「貴女のエーテル量で瞬時にできるとでも?」
「だが!」
「いいか、よく聞きなさい」
「なんだ!」
「私は貴女を生かさなければならない。
それはきっとこの状況でなくても同じだろう。
貴女は白に愛されているのだから…貴女が名を変えても白は貴女を愛し生かすだろうから。
ジシャの娘よ、これは私の使命だ。
『灰色は死しても使命を全うす』…純潔な白よ、決して後ろを振り向くな」
「ジシャ…?私には記憶がない。
一体どういう…!」
「進め!」
「っ!」
「まだ知らずともよい!
ただ今は振り向くな、進んで…我ら白の民が生きた歴史を潰してくれるな!」
彼はその声と共に魔法を発動させていく。
連続して放つそれはどれも美しいもので、ガウラもこれ程の美しさは自分では出せないだろうと思った。
『ライトスピード』
一定時間であれば詠唱もなく魔法を発動できる。
そう、一定時間…時間は少ない。
もう前に進むしかなかった。
「最後に貴方の名前を聞いてもいいかい?」
「……私は──イ────」
「…………そうかい。
必ず生きて再会しよう、私は進ませてもらう!」
彼女は名前を聞き取れなかった。
だがそれでよかったのだろう。
今は前へと進まなければならなかったからだ。
斧を構え牙を剥く。
狼の如く鋭く目を光らせ彼の開けた道を進んで行った。
「…ナキよ、父はお前の友に出会えた。
きっと彼女は生きて帰ってくる…だが記憶と名はきっと持っていないだろう。
それでもお前は、友でいてやってくれ」
それ以降彼の姿は見ることなく、ゼノスとの闘いの後になり武器だけが手元へ返ってきた。
ただでさえ質量と使命で重い物が、更に重く感じた。
───
「…ナキ」
「なぁに?」
「お前の父の名を聞いてもいいかい?」
「エイナルだよ。
黒魔道士部隊に所属していたんだ」
「……そうかい」
「どうして?」
「いや、特に理由はないさ。
ただ気になっただけだから」
「そう?
……あ、そうだガウラ!
今日暇だったら私のダンスショー見に来てよ!」
「あぁ、構わないよ」
「あと、演奏してくれると嬉しいんだけどなぁ〜」
「わかった。
1曲くらいならご一緒させていただこうじゃないか」
「やったぁ!」
ようやっと、あの時の彼の名を聞けた気がする。
ナキ…君の父は偉大な魔法使いだったよ。
誇り高き意志と使命を持つ、強い方だ。
私は忘れない。
彼の意志を。
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