Past7:始まりの白


その森には▅▅がいた。
▅▅は何もかもが白かった。
肌、髪色、目…魂。
誰かは「気味が悪い」と怯え去り、また誰かは「美しい」と呟いた。
その力を狙う者も多い。
▅▅は森を進む中で1人の武人と出会う。
武人はそれの強大な魔力に惹かれた。
「まるで時を止められたかのようだ」
これが一族の扱う魔法の始まりである。

発見された記録:1にて

─────

「時魔法、と言っても実際にはただの無属性魔法ですよ」
「そうは言うが…あの時の私は本当に時を止められたかのような錯覚を覚えたぞ」

そんな話をしているのは白い髪のミコッテの女性と黒色の髪のミコッテの男性だった。
ミコッテの女性は杖を使い地面に魔紋を描いでいる。
一方男性は刀の柄に手を置きながら女性の様子を見つめている。

彼らの出会いはごく普通のものだった。

女性は何もかもが白く、なにものにも所属されない無属性魔法を扱える者だ。
ただ扱えるだけでなく、その力は強大で場合によっては時を歪めてしまうほどの力を出すこともあった。
それ故に狙う連中は多く、女性はうんざりし森の奥にある湖付近に1つの家を作り密かに住んでいた。
そんな家を見つけいつの間にか転がり込んだのがミコッテの男性だ。
彼曰く「迷子になった」んだそうだ。
嘘ではないと直感が告げたのか、女性はそのまま彼を居座らせている。
「恩義」と称して彼は毎日出かけてはどこかから食料等を集めてきた。
これで今は生計を立てている。

「それで、今日はどこへ出かけるんですか」
「今日はそこの湖に潜るつもりだ」
「魚が食べたくなったんですか」
「そうさな、肉も良いがたまには魚を食べねば。
お前さんのそのほっそい身体に肉をつけねばなるまい?」
「肉をつけて、結果私を喰らうと」
「それも良いのう!」
「………」
「…冗談だ」
「…はぁ。
今日は潜らず素直に釣りなさい。
今日の天候は霧がかかり、後に大雨です。
風邪をひきますよ」
「こんなに晴れているのにか!?」
「天候は気まぐれですよ」
「ぬぅ…だがお前さんの天候当てが確実なのも確か。
なれば釣竿を用意して、釣りをしようではないか」

話を終えるとまた女性は魔紋を描き足した。
男性は小屋に戻ると木と紐で釣竿を作り、釣りを開始するべく良い釣り場所を探し始めた。

無愛想な女性と能天気な男性。
これが後の白き一族となる者たちだ。

─────

刀を持っている者がエオルゼア地方に居ること自体珍しい時代だった。
だが彼はそんなことも気にせず各地を転々としていたそうだ。
ちなみに元々は片手剣と盾を持っていたらしい。
なぜそれらを捨て刀を手にしたのかは結局天寿を全うするまで語ることはなかったが、兎に角彼の武術は素晴らしいものだったことは事実だろう。

「おお、小魚が3匹も釣れたぞ!」

釣りをしている彼を見つつ、なぜ彼が居座っているのかを考えるのが女性の日課になってしまった。
能天気な様子の彼を見てため息を吐き、描いた魔紋の上で術を唱える。
今試しているのは結界の一種で、彼女を追う者から身を守るために作られている。
一生結界を貼り続けることは魔力の大量消費に繋がってしまうため、数日持つような物を少量の魔力で構成している。
今日も無事に貼り終えられた。

そんな無愛想な女性は男性を見つつ呟いた。

「彼にはやはり、結界など通用しない」

と。

それが一種の愛情を意味するとも知らずに。

─────

2年が過ぎたある日のこと。
女性は腹に違和感を覚えていた。
それが子を授かったことだということはすぐに分かった。
胎児も同じくエーテルを持つ。
強大な魔力の持ち主の子であれば尚更気付きやすい。
この2年、顔を合わせているのはあのミコッテ族の武人だけだ。
しかもつい半年前に急に告白もされている。

「お前さんを護り続けたい」

とまぁ告白らしいセリフではないのだが、好意を意味する言葉だということは分かった。

当然子に栄養を与えるのと同じように、エーテルも子に与えることとなる。
それはいくら多量のエーテルを持つ女性でも疲労するものだ。
男性もそれを知っているようで、ここ最近はこの家より安全な場所を探しに出かけることが増えた。
この湖の近くはとても綺麗だが、定期的に魔力を使った結界を貼らなければ良からぬ者が来ることは間違いない。
ならばこれより更に奥…誰も来れないような場所を探し、エーテルの消費を抑え暮らす他ない。

「今日はやけに遅い…まさか、迷子に……いや、大の大人が迷うことはない…」
「おお、待たせたか!?」
「!?
急に大声をあげないでください…!
今日はどちらまで?」
「恐らく森の最奥だ。
あそこまで行ければ、もはや誰も寄り付かぬだろう。
だが問題は距離があることと、それ故に着いてしまえば暫くはここへ戻って来られないことだ…如何する?」
「……行きましょう。
正直、2年も結界を貼り寄せ付けていなければ誰も来なくなるとは思いますが…念には念を」
「では行こう。
私はお前さんとその子を護る義務がある」
「あら、それは頼もしいですね」

そうして2日で準備を済ませ、彼らは小屋を置き森の最奥へ移動した。

着いたそこは最奥にも関わらず陽の当たる綺麗な場所で、空気ももちろん澄んでいる。
新たな隠居場所には良い場所だが、魔力の強い女性はそこで別の気配を感じていた。

「これは…精霊ですか」
「おう?」

彼女だけが感じ取れた精霊の意思。
ここは精霊が住まう場所だったのだ。
となればここに住んでもいいか精霊に聞かねばならない。
それは礼儀としての行いだ。
精霊と対話するのは角尊という存在が多く、ただのミコッテ族が行うところを見るのは珍しい。
精霊達も彼女が対話しようとする姿勢を見て驚いている様子だ。
ただし、男性の方は何も感じていない様子でじっと女性を見つめている。

「…………」
「お、おい…どうした?腹が痛いか?」
「シッ……。
ここに住む精霊に問いかけているんです、お静かに」
「おう……」

力強い精霊の意思はまるでケモノのようだ。
ケモノを宥めるには力を見せればいい…ある意味最善策だ。
女性は持っていた杖を地面に突き刺し、自分の魔力を見せつけた。
その魔法はとても綺麗で心地よく、静かな強さを感じる。

「…ここの精霊は、とてもイタズラが好きなようですね。
魔力の強い者は…彼らの餌食も同然でしょう」
「お前さんにとって危険だということか?」
「対処さえできれば問題ありません。
彼らに私という自我を見せつければ良いのですから」

そう言うと女性は目を光らせより強い魔法を放った。
とても眩しく輝くその魔法を精霊は認めたようで、輝きが収まると同時に静けさを感じた。

「……どうだ?」
「私のことは認めてくれたようですが…この先産まれる子達は、ある程度の歳になるまで時々彼らに遊ばれてしまうでしょう」
「ならどうすれば!?」
「時を待つしかありません。
10歳を過ぎれば証明できるほどの力を持つはずですから。
それにここに住み着いた方が、外に出てこの魔力に目をつけられるよりはマシでしょう」
「そうか…なら、早速小屋を建てる準備をするか。
私に任せて、お前さんはゆっくり休んでくれ」

─────

数週間が過ぎ、完成された小屋に響くのは子供たちの鳴き声だった。
彼らは後に黒の武力と白の魔力に別れた双子となる者だ。
魔力を持つ子は精霊に遊ばれつつも成長し、武力を持つ子はこの地と人に危機が及ばぬよう護り続ける。
それは精霊が彼らに飽きるか彼らが別の地へ行く…はたまた別の者が迷い込み混血児を産み出すまではずっと続く関係となる。
だが精霊の存在に気付ける者は最初の白き者以降産まれることは少ないだろう。
そうなれば精霊はヒトの魔力で遊び続け、対象者は自滅の道へ一直線。
そこで考えられたのが儀式という形だった。
儀式として継げば、精霊の存在を忘れられることもなく且つ彼らへの力の証明も可能だということだ。

そこまで記録をして、女性は今日も子らに知識を与えに外へ出る。
男性も変わらず家族のために食料を集め武術に励んだ。

記録者の名前はニア・リガン。
潔白(ガザニア)の魔道士である。

0コメント

  • 1000 / 1000