Main1-9:白に紛れた黒
「よっしゃ!戦闘不能!」
「流石だ詩人さん!
戦士さんそのままあの忍者を捕まえてくれ!
全員バーストかけるぞ!」
「おう任せろ!ホルムギャング!!」
「しまった!?」
[伝承となった炎獄のアラガントームストーンを集めてくるクポ!
集めてきたら素敵な景品と交換してあげるクポ〜!]
というモーグリたちの宣伝により始まったモグモグコレクション。
折角だからとそのイベントに参加するためにガウラはフロントラインへ通っていた。
今回の戦場はシールロックである。
どんどん調子が上がっているようで、現在戦意高揚Ⅳとなっていた。
先陣を切っている戦士に続き、彼を戦闘不能にしないために奮闘する占星術師。
近接職も戦士と共に突撃し、遠隔職も援護射撃を開始する。
今回は黒渦団に所属していた。
参戦する人口の平均化のために自身の所属するグランドカンパニーとは違うチームに入り参加することが約束とされているので、このように不滅隊所属だが黒渦団のチームに参加するということも起きる。
黒渦団は現在3位、あまり宜しくないのが現状だ。
「押せぇ!!」
「よし、戦意高揚Ⅴになりました!」
「黒魔道士さん、さすがです!」
「少人数で空き巣の確保を!残りは1位の双蛇党を止める!」
「おー!」
諦めずに指揮を続ける指揮者、それに従い1位の双蛇党を止めに行く黒渦団…不滅隊の者たちもそれに乗っかり双蛇党にけしかける。
だが双蛇党も黙っておらず、上手く防衛しながら戦っていた。
結果は逆転が難しく3位のままで終了した。
ガウラの体調は良好で、武力も強く発揮している。
このフロントラインでも日頃の依頼の時でもかなり活躍した。
武力と言ってもガウラの場合は単純に物理的な力が増しているということではなく、俊敏さ・観察力・判断力という強さが前に出やすい傾向だ。
戦闘中の彼女は獲物を目の前に活き活きとした狼のようだった。
その様子はヘリオにも伝わっている。
「………」
「どうした?ヘリオ」
「あぁいや…姉さんの奴、張り切ってるなと」
「強いもんなぁ、俺にはまだ真似できそうにないや」
「里で特訓していたのにか?」
「あそこで学んだ強さとはまた違う強さを感じるっていうか…」
「まぁ、教えてくれる人がギルドの人間だったからな。
それ以外は独学だろうし」
「なるほどな…。
あ、そうだ。俺、一旦里に戻るよ。
髪色のこともあるし」
アリスがそう言いながら髪の先を弄る。
彼の髪は黒き一族の血とは裏腹に白い髪が混ざっていた。
少し前にガウラのリハビリとアリスの吟遊詩人としての動きを見るためにトトラクの千獄へ行った後に発覚したものだ。
アリス自体は気づいていたのだが、どうやら彼が魔法を扱うと同時にこの白い髪の部分が増えているというのだ。
しかも同じ黒き一族のヴァル曰く[黒き一族は総じて魔力を扱うことが難しく、使うと魔力の消費も激しく動けなくなる]とのこと。
一族として異例の存在…そういうことでアリス自身も気になり調べようとしていた。
「あぁ、行くなら行ってこい。
その後どうするかはまた話を整理してからで構わない」
「ありがとう…!」
「なら俺は俺で白き一族の集落へ行くか」
「え?」
「姉さんは記憶もないから気にしてなさそうなんだが…白き一族も同じようなもので、俺たちは武力が総じて得意ではない。
できても簡単な狩猟や体力作りの稽古くらいで実戦は不可能。
それなのにあれだけの武力を発揮しているのはあんたと同じく異例の存在だからだろう」
「……」
「俺が大剣を置いたのにはそういう理由もある。
……武力を伸ばすことに限界を感じていたからだ」
「…だから、魔力を主体とする賢者になろうって?」
「そういうことだ」
その日はそれで話を切り上げたが、ヘリオもアリスも互いの話を聞いて少しモヤモヤしているようだった。
─────
『おや、珍しいね。
賢具の件以来かい?』
「母さんは相変わらずのようだな」
『これでも忙しいんだぞ?
遺品の捜索と迷い獣を追い払うのとで』
「そうかい」
次の日、アリスを見送った後に白き一族の集落にやって来たヘリオは早速ジシャにガウラの武力について問うてみた。
白き一族と黒き一族の始祖、結ばれた経緯、それが分かたれた理由…。
色が交わらないのと同じように、魔力と武力も交わらず偏りが出ること。
白き一族には魔力が、黒き一族には武力が。
だがこれでも長く続く一族にはごく稀に異例の存在が産まれた。
それは純血種同士が永遠の絆を約束し、子を授かった場合である。
白き一族に武力の子、黒き一族に魔力の子。
色もそれに従い武力の子は黒く、魔力の子は白くあった。
異例の存在は互いに約束した契約に障害が出る…その場合は武力の子を黒き一族が引き取り、魔力の子は白き一族に引き取られ生を全うする。
頭を抱えるような内容だった。
理解するには少々時間をかけたいとも思う。
『……ヘラは、その中でも今までの事例にない存在だったんだよ』
「……魔力だけでなく、武力も持っていたからか?」
『…知っていたのかい?』
「いいや勘だ。
俺は最初大剣を持ち武力として有能な暗黒騎士となっていた。
けれどここに来て武力の成長が止まり、比例して魔力が高くなり始めた。
姉さんは変わらず魔力がないが、武力が日に日に増している。
そして俺たち双子は元々1人だった…それは俺の魔力と姉さんの武力が元々1つだったという証明にもなる」
『……正解だよ。
懐かしいね、ジンのあの時の驚いた表情。
当時、産まれてくる子のエーテルを視て将来どういう魔力を抱えるのか見てくれたヒトがいたんだ。
彼にヘラのエーテルを視てもらったのは3歳くらいの頃だったかな。
最初はそれこそ魔力が高かったけど、遅れて武力も成長し始めた…。
武力に関しては私も他の者も殆ど教えていないのに、あたかも知っていたかのように剣を振るい弓を構え矢を放っていた。
体力作りの稽古だというのに力が強すぎたものだから、相手は同じ子供のナキちゃんではなく大人がやっていたよ』
「そんなに差があったのか」
『だから私は族長…お前たちの父と話をして、角尊に助けを求めたのさ。
まぁ、結果がこの有様だけど…だからといって角尊は悪くない。
これはきっと起こるべくして起きたことで、角尊に会えても会えなくてもこの結果だっただろう』
[ヘラの力が、それほどまでに強かったから]
そう言ってジシャは周りを見る。
集落は当時のまま残っており、小屋は焼け瓦礫の山となっていた。
話を聞き終えたヘリオは、どことなく納得した様子だった。
─────
その後は軽く互いの進捗を話し、ヘリオは帰路に着いた。
《あぁヘリオ、やっと繋がった》
「姉さんか、フロントラインの調子はどうだ?」
《好調だぜ!1位も取ってきた!
そろそろモーグリに交渉してもいい頃かなとは思ってるところさ。
…ってそうじゃなくてだな?》
「要件はなんだ?」
《アリスから連絡が入ってさ、今度アイツの故郷について行くことになったのさ》
「……母の命日ではないよな?
何しに行くんだ?」
《アイツの白くなった髪について、知ってる奴が居ないか確認しに行くんだとさ。
私の観察眼を借りたいんだとよ》
「ほう」
《そこでだ、お前も一緒にどうかと思ってな?》
「………」
《…今一瞬嫌そうな顔したろ》
なぜバレた。
《とにかく、アリスからも直接話が来るだろうから考えておくんだぞ?
それじゃぁ私は依頼掲示板を見てくるから、また今度な!》
「あ、おい!」
ガウラから連絡が入ったかと思えば急に話を進められ急に話が終わってしまった。
彼女は夕方だというのにまだまだ動き足りないらしい。
今から依頼を受けるとなると、何時に帰るんだろう…連絡もなく遅いとヴァルに怒られるんだろうな…とか考えながらヘリオはトームストーンをしまいミスト・ヴィレッジの家へ帰っていった。
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