Main1-10:真相を知るために


アリスから[自分の白い髪について調べたいことがあるから着いてきてほしい]という相談を受けてから2週間後、彼の運転で目的地の故郷に向かっていた。
知っている者がいれば何かしらの反応を見せるだろう…それを逃さず見れるのは、観察力の強いガウラが最適だった。

「故郷に着いたら、何をしたらいい?」
「いつも皆、出迎えてくれるので、その時に俺の髪を見て動揺するような素振りをする人が居ないか見て欲しいです」
「分かった」
「その後は家の掃除と、夕飯の時間前に子供達の相手をして、夕飯が終わった頃に、動揺した人物を家に呼んで話をしようと思ってます。
明日は、花を摘んで、そのまま墓参りをしたら、皆に挨拶してテレポで帰りましょう」

ガウラの問いに答えるアリス。
助手席にいるヘリオは1人何かを考えている様子だった。

「ヘリオは何考えてんだい?」
「いや、別に」
「そうかい」

移動中、何もないので体が訛りそうだと伸びをしながら呟くガウラ。
今日はヴァルはいない。
どうも里に呼ばれたらしく、そっちへ向かったのだそうだ。
理由はよく分からないが、彼女も何も告げなかったので私が気にするものではないのだろう。

しばらくすると荒野の景色が森へと変わる。
森の道にレガリアなんて走らせるとレガリアに傷がつきそうだと思ったが、流石ガーロンド・アイアンワークス社製…特殊なコーティングでもしているのか傷はつかなかった。

─────

集落に着いたようで、入口前にレガリアを止める。
入口付近で住民と話していたルガディンの男性がこちらに気づき近づいてきた。
一瞬だが、目を見開いていた。

「おー!アリスの坊主!
今回は来るのが遅かったじゃねぇか!」
「おじさん!お久しぶりです!
すみません、色々忙しくて命日に来れなかったんです」
「お陰で、今年の祭りの舞は散々だったぜ…。来年は─」
「全力でお断りします!」

そんな話をする2人。
後ろでガウラがヘリオに[祭りの舞?]と耳打ちで聞いている。
ヘリオはその問いに少々苦笑いをしていた。

見知った声が聞こえてきたのか、他の住民たちも集まってくる。
老若男女、世代は広いようだ。
アリスの髪の色は特に気にしていない様子。
住民たちと話をしているアリスを他所に、ルガディンの男性がこちらに気づき声をかけてきた。

「お!兄ちゃんも来てたんだな!」
「お久しぶりです」
「久しぶりだな!
ところで、隣のべっぴんさんは…、アリスの第2婦人か?」

ん?
今なんと?

彼の言葉に耳を疑うガウラと固まってしまったアリス。

「違います!この人はヘリオの双子のお姉さんで…っ」
「ほぉー、姉弟を揃って落としたかぁ。
なかなかやるなぁ?」
「違ーうっ!!」

アリスは慌てふためく。
あぁ、こいつはどこに居てもいじられキャラなのか…とかそんなことを一瞬思ってしまったのは秘密にしておこう。
ヘリオはそっぽを向いて肩を震わせている。
もう何でもいいから笑っとけ。

「ちょいとアンタ!アリスをからかうんじゃないよ!
女の子の方も唖然としてるじゃないか!」
「いやぁ、アリスの反応が面白くてなぁ!」

彼に対する口調的に奥さんだろうか。
ビシりとツッコミを入れていた。
そういえば彼女もここへ来た時にアリスの髪を見て少し驚いていたように見えたな。
ため息をつきながらアリスは話し始めた。

「この人は、ヘリオの双子のお姉さんのガウラさん。
俺の義姉さんでもあります」
「ガウラ·リガンです。
去年は弟達がお世話になりました」

紹介されお辞儀をするガウラ。
住民たちは次々と挨拶をしてくれた。
そうしていると奥から人を掻き分けやって来る女性がいた。
アリスはもちろんヘリオも見知った顔のようだ。
3人が挨拶をしていると彼女がこちらに視線を向ける。
驚いた様子だが動揺はしていない。

「アリス…2人目の奥さん貰ったの?」
「違うよっ!!
リンダちゃんまでなんて事言うのさっ!!」

2人のやり取りに笑いが生まれた。
ガウラは心の中で突っ込むのも止め苦笑い。
彼女はリンダというらしい。
後に聞いたが、ここに住んでいた時の恋仲だったとかなんとか。
アリスが意外と隅に置けない奴だったとは。

─────

「義姉さん。怪しい人はいましたか?」

家に着き掃除をし終えた後、テーブルを囲んで話を始める。
最初に来たルガディンの男性とその奥さんであろう女性の様子が変だったと素直に伝える。

その後の段取りを軽くまとめ終えると、外から子供たちの声が聞こえ始めた。

「そろそろ広場に行きましょうか、子供たちが待ってるみたいだ」
「あぁ、そうだね」

広場に出ると子供たちが手を振っていた。
あの様子からすると、アリスは相当好かれているようだ。
子供たちの受け応えをしている様子を見ていると、1人の女の子がこちらに気づきやって来る。

「ねぇねぇ!お姉ちゃんも冒険者なの?」
「あぁ、そうだよ」
「女の人なのに凄いね!
私、お姉ちゃんの冒険の話が聞きたい!」
「僕も聞きたい!」
「俺も!」

どうやら女の冒険者はここでは珍しいらしい。

「コラコラ!そんな急に…」
「構わないよ。子供の相手は得意だからね!」
「義姉さん…、すみません、お願いします」

実際子供は大好きだ。
ワクワクした様子の子供たちを見ながら竪琴を取り出す。
それはなに?
竪琴だよ。
そうやり取りしながらガウラは冒険の話を始めた。

弓を掲げよ 冒険者
森に耳を傾け 冒険せよ
その先にあるのは英雄の道
荒野 海都 雪の道
英雄進んだ どこまでも
望んだ未来は進めない
友は友の為の盾
別れは望んだものじゃない
それでも進め 親愛なる者(世界)の為
それが英雄の旅路となる為に

気づけば日は沈み始めており、どこからかいい匂いもし始める。
僕はあんな冒険がしたい!
俺はこういう冒険がいい!
各々好きに喋っていると、彼らの親たちがご飯の時間だと呼びに来た。
元気に別れの挨拶をするのを見送っていると、最後に残った女の子がやって来た。

「私、大きくなったらお姉ちゃんみたいな冒険者になりたい!」

その言葉に少し驚いてしまったが、大きくなって冒険者になったら一緒に旅をしようと約束した。
どうか同じ道は辿らぬよう…それでも心のどこかで私という冒険者を求めてくれた姿に嬉しさも感じた。

─────

夕方に子供の面倒を見てくれていたお礼にと、親たちが夕飯のお裾分けを持ってきてくれた。
受け取り礼を言っていると、ルガディンの旦那の奥さんがやって来る。

「はい、アリス!たんと食べとくれよ!」
「はい!
…そうだ!おばさん、夕飯が終わったら、おじさんと一緒に家に来てくれませんか?」
「なんでだい?」
「ちょっと話したいことがあって」
「…わかったよ。あとで邪魔するよ」
「お願いします」

アリスの話について心当たりがあるような返答だった。
一旦別れを告げ各々家で食事を取る。
家庭によって少しずつ味が違っており、どれも美味しかった。

片付けを済ませ茶の用意をしていると、約束していた時間になったようで夫婦揃ってやって来た。
一族の事は隠し、アリスの髪色について話を始める。
夫婦は複雑そうな表情でその話を聞いた。

「アンタ…話しても良いんじゃないかい?
もう、この世にラナさんは居ないんだし…」

奥さんがそう言うと、腹を括ったのか旦那さんは話し始めた。

アリスの母が出産した赤子は白い髪と緑の眼を持っていたこと。
白い髪は父も母も持っていない髪色だったこと。
それを見た父と彼ら夫婦は長い陣痛の末子を出産できたことで気が抜け眠っている母には話さずルガディンの旦那の術でアリスの髪色を隠したこと。
それは母を悲しませたくないためだったこと。

「俺は、アクと同じ船で船医をしていてな。
簡単な魔法なら使えたし、アクには借りがあったからな。
今まで黙っていてすまなかった」

話してくれた彼らに礼を述べ、この日はこれで話を終えることにした。

「…で、帰ったらどうするつもりだい?」
「今回のことをヴィラさんに報告して、この魔力がどこから来たモノなのか調べようと思ってます」
「宛はあるのか?」
「んー、あると言えばある…かなぁ」
「なんだその曖昧な答えは…」
「いや、どこまで話していいか分からなくてさ。
黒と白、両方の一族に関わる事ってだけは言えるかな」

曖昧な答えに顔を合わせる双子だが、今までの話を聞いていたヘリオは何か思うことがあったようだ。

─────

翌朝になると、黄色いラナンキュラスを詰んで1つの墓へやって来た。
とても見晴らしのよく綺麗な海が一面に広がっている。

「母さんは海を眺めてることが多かったので」

そう言いながら花をお供えし、黙祷を捧げる。
双子も同じように黙祷した。

「私の黙祷はこれかな」

そう言って竪琴を出すガウラ。
彼女は吟遊詩人。
いつしか禁句の歌となり、戦闘では使うことも禁じられた詩を彼女は知っている。

前を見よ
友の好きな景色がある
右を見よ
友の為の剣がある
左を見よ
あなたの友がいる
だが決して向くな
後ろだけは向いてはいけない
そちらには過去しかないのだから

魔人のレクイエム。
魂を見送る鎮魂歌は、広い海に溶けるように静かに響いた。

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