Main1-11:始まりの声を聞く者
「お前たちが此処に揃うのは儀式の時以来だね」
「そうだったか?」
アリスに集落に来るように言われやって来た双子を迎えたのは、ジシャの言葉だった。
ヘリオは事情を察している様子だが、ガウラはあまり興味がなさそうだった。
「で、魔力を調べるのになんで杖が必要なんだい?
アリスは黒き一族なんだろ?」
「俺たちの始祖が白き一族と黒き一族の者だからだ」
「…ふーん?」
「興味無さそうにするな。
姉さんの武力の強さにも関係しているんだぞ」
「え?」
魔力の白と武力の黒。
交わるが交わらない力。
始祖である白き女と黒き男は双子を授かったが、白き者たちの魔力とそれに群がる精霊から護るために黒き者たちは別の地へ行った。
別れたために二度と交わらないと思われていた魔力と武力を、ヘラが同時に有していた…それは異例以上の異例であること。
ヘラが儀式の際にガウラとヘリオに分かたれたことにより、武力はガウラが、魔力はヘリオが抱えることになったこと。
そして双方がその力を強く発揮し始めている…。
「最近、やたら調子がいいと思っていたけど、そう言う事だったのか…。
そう考えると異例なのか…」
「そういう事だ。
そして、アリスが杖を使う事で、その魔力が一族由来のモノであると判明すれば…」
「アリスも異例…という訳かい」
「あぁ」
「……そういう事なら仕方ないね」
「すみません、お手数掛けます」
ちなみに呼ばれた理由はルーツを聞くためではない。
改めてジシャに話を聞くと、始祖が使っていたとされる杖は現在自分たちが住んでいた家の瓦礫の中にあるそうだ。
タイニークァールの体を借りているジシャはもちろん、アリス1人でもこの多くの瓦礫は退かすのに時間がかかりすぎる…そういうことでこの双子が呼ばれたのだ。
早速瓦礫を退かす作業を始める。
時々他の物資が出てくるが、もうこの状態になって10年程なので劣化していたり焼けてしまっていたりする。
家に使われている木材もそうで、劣化が進みボロボロに崩れやすい。
「これは?」
「フライパンかな、穴が空いているねぇ」
「母さん、これなんだい!?」
「それは…なんだい?
……あぁ、分かった暖炉のパイプだ!
なかなかにひん曲がったなぁ…」
銅鉄製の部品は残りやすいのか見分けがつきやすいのか、よく見つかるようだ。
辺りが薄暗くなってきた頃、何かを見つけたのか声を上げるアリス。
「あった!ありました!」
ガサガサと音を立てて出てきたアリスの手には、1本の杖らしきものがあった。
見た目からしてこれも状態はよろしくない。
ヘリオとジシャはエーテルを感じているようで、焦った表情は見せない。
「やはり瓦礫に埋もれていただけあって、咲いていた花が萎れているな」
「花が咲いていたのかい」
「そうだよ。とても綺麗な花さ
…それじゃぁアリス。これを持って少し魔力を込めてみておくれ」
「…はい」
緊張した様子でアリスは魔力を込め始める。
ピリピリした感覚は感じない。
それは反発していないということで、ジシャは続けて魔力を込めるように指示した。
萎れた花は徐々に元気を取り戻していく。
「違和感はあるかい?」
「いえ、無いで……す」
妙な空気を感じる。
ガウラは腰に提げていた剣に手を伸ばしアリスを見つめる。
続いてジシャもアリスの様子に気づき、声をかける。
明らかに様子がおかしい。
観察をすると、何かに取り憑かれたような様子だった。
「アリス、どうした?」
問いには答えない。
双子も静かに様子を疑うっていると、アリスは突如杖を掲げ何か言い始めた。
その声に呼応したのか、杖が急速に修繕され花が咲き誇った。
それに釣られたのか魔力の可視化なのか、沢山の蝶々も飛び交う。
これだけ蝶々が集まると少し恐怖を感じる。
「何が起こっている!?」
「俺にも分からん!」
「これは…まさか、精霊のイタズラか!?」
警戒をする3人。
アリスは彼らにお構いなく言葉を発した。
白き時 無の中に1つの色
色はとても強く 白は色に染められる
黒き時 有の中に1つの色
色は儚く 黒は色を飲み込んだ
白と黒が混ざる時 2つは1つの色となる
「何故その術式を!?」
驚いた様子のジシャ。
ガウラもヘリオも目を見開き声を聞く。
何故だろう、何処かで聞いたことのある言葉だ。
だが術式は終わらない。
アリスは更に言葉を発する。
1つに交わる色を持つ者
新たな未来への 扉開かれん
それはジシャは聞いた事のない術式。
ヘリオも聞き覚えのない言葉だが、アリスと同じく呟いていた者が隣にいた。
漂い始めた花の香りに蝶々が集まり始める。
アリスが杖を突き立てると、光の柱が展開。
光の柱に巻き込まれる蝶々を視て、ガウラは何故だか美しいと感じていた。
誰もが見たことのない魔法。
急激なエーテルの放出だったので、地脈にも少々影響が出ており足元に小さな花々が芽を出していた。
魔法が収まり静けさが戻る…月明かりに照らされたアリスの髪は白く染まりきっていた。
急激に魔力を消費したアリスが力尽いて膝を地面につけた。
「「「アリス!」」」
3人がアリスに駆け寄る。
放心状態の彼に肩を揺さぶるヘリオ。
彼の焦る様子はなかなか見ない気がする。
「おい!大丈夫か!?」
「あ……ヘリオ……」
「何があった!?」
「魔力を込めたら、女性の声が頭に響いたんだ…。
とても優しい声で…愛しい我が子達って…そこから記憶が無い」
「……」
とにかく無事だったのを確認できたので、ヘリオはほっと息をついた。
ジシャは思うことがあるのか何かを考えている様子だ。
「あんたは今、大量に魔力を放出したんだ。
少し休め」
「…うん」
気を失ったアリスを安全な場所に寝かせたヘリオを見ながら、あれは何だとガウラは問う。
「最初は精霊のイタズラかと思ったんだが、どうやら違ったようだ」
「と言うと?」
「これは憶測でしかないが…アリスが聞いた声は、始まりの祖の声じゃないかと思ってね」
「?」
「始まりの祖は、いつか武力と魔力の両方を持つ者が現れると分かっていたのかもしれない。
そしてそれは、一族の新たな転機になることも…」
意味がわからないとでも言いたげなガウラと、母の話に耳を向けるヘリオ。
そんな2人を交互に見ながら、ジシャはある考察を立てた。
「本来であれば、さっきの現象を引き起こしていたのはヘラだったかもしれない」
「魔力と武力を持っていたから…?」
そうだと頷く。
複雑そうな表情をしたガウラの横で、無表情のままヘリオはジシャに別の質問を投げかける。
アリスの魔力は白き一族のものなのか?
ジシャは間違いないと答える。
それはジシャだけでなく杖もそう証明していた。
さぁそろそろお帰り。
そう言われ彼らはアリスを背負い帰っていった。
─────
「なぁ、ヘリオ」
「なんだ」
[私、あの術式を何処かで聞いた覚えがあるんだ]
そう聞いたヘリオが驚いたのか歩みを止める。
「……どこだろう。
思い出せそうな気がするんだが…んぁああ゙、モヤモヤするー!!」
「……はぁ…。
夜に大声を出すと魔物も来る、姉さんの家に着いたら考えてくれ」
「そうする…」
その言葉はヘリオの記憶にない話だった。
彼さえもどこで聞いたのか分からないので、答えることはできなかった。
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