Main2-5:膨れ上がる仮定

黒き一族の祖であるカ・ルナ・ティアは闇属性の魔法を得意としていた。
だがどこかの時代で一族は魔力が扱えなくなった。
理由は不明…可能性としては、彼と結ばれた白き一族の祖:ニア・リガンが扱った同じ術式を、誰かが黒き一族の魔力に枷をつけたということだ。

カ・ルナ・ティアの直系に入るフ・アリス・ティアが魔法を…闇属性のものを得意としたこと。
しかも一族特有の痣もある上に武力も問題なく扱える。
魔力の扱える黒き一族がいることが異例だ。
そして同じくして武力がない白き一族から武力に長けたヘラ・リガンが産まれた。
彼女は武力だけでなく一族の特徴でもある魔力も有していた。
属性による得意不得意は分からないが、白魔法か黒魔法かと問われると白魔法が得意だった。
ヘラは後に本体をガウラ・リガン、エーテルをヘリオ・リガンとし、分かたれた。

ガウラは武力、ヘリオは魔力に長けている。
仮に身体が武力を覚え、エーテルに魔力があるのだとすれば…
もし枷があるのだとすれば、体にではなく体内エーテルに枷を付けた可能性が正しい…。
そしてガウラとヘリオは枷により魔力と武力が封じられているのではなく、純粋にそれらの力が分離している状況。
だから身につけることができた…。
ヘリオはそう考えながら今日も賢学を学んでいた。

─────

モードゥナ。
そこで闇属性の魔法を代表するダーク・ファイアを放つ男がいた。
彼の放った魔法はヤ・シュトラ以上に威力を発揮し、対象となったギガントードが灰となったほどだ。
唖然とするガウラやヤ・シュトラ、同行したウリエンジェ。
無論、放った本人であるアリスも同じ表情をしている。

「これは…相性が良いと言う言葉では生ぬるい程の威力よ、フ·アリス·ティア。
貴方、一体何者なの?」
「俺にも分かりません。だから調べてるんです」

その時のアリスの声色も記憶に新しい。

「……」
「義姉さんは、どう思います?」
「…」
「ガウラ?」
「え?あ、あぁそうだな…
そもそも同じ魔法ではあったが使った人が違う。
より調べるなら、ここから更に[同じ人]が[同じ威力で属性の違う魔法]で調べてみるのもありだろうさ」
「それもそうか…」
「まぁ、アリスの扱っていた魔法であの威力は私も初めて見たから、得意だということは確実だろうけど。
……過去の私も、あれ程の魔法を扱えたのだろうか」
「何か言いました?」
「いいや、なんでもないさ」

この日はここで解散となり、ガウラとアリスは共に黒衣森にあるガウラの個人宅へ戻ることにした。

─────

「属性との相性はあるとはいえ、あの威力は…」
「まぁ私よりは強いんじゃないかい?」
「そう言いますけど…ってちょっと待ってくださいよ。
今更ですけど、エーテルがほとんどない義姉さんはどうして魔法が扱えるんですか?」
「そりゃ、環境エーテルを軸にしてるからな…だから、体内エーテルを扱う赤魔法はより白魔法や占星術が扱いやすいというだけだよ」
「んー、枷というわけではないのか…」

黒衣森にあるガウラの個人宅に帰りつつ話し合う2人。
難解のようでどちらもうんうん唸っている。

「枷がなくとも、私とヘリオはそれぞれ得意分野が全く違う。
私は武力、ヘリオは魔力という風に。
黒き一族の状況は把握していないが、私とヘリオの関係だけで見ると[身体とエーテル]だ。
人はまず、身体とエーテルを有して産まれる…それは恐らく私(ヘラ)もお前も、一族全員が例外ではない」
「そうですね」
「身体とエーテルが分離をすれば、それぞれが記憶しているものも分離すると、私は考える」
「記憶しているもの?」
「あぁ、よく言うだろう?[動きは身体が覚えているもの]だって。
脳が記憶してるものを自然とできること、とも言われている。
これって、武力にも言い換えられると思うんだ。
武力は武勇の力、武勇は武術が優れ強いこと…なら武術は?
武術というのは、人から教わり又は自ら身につけることで得るものだ。
つまり[身体に覚えさせることのできる力]だろう」
「ということは、エーテルが離れ身体だけになったも同然の義姉さんは、身体が武術を覚えていたから武力が強く出るということですか?」
「そう解釈できるとは思うね」
「となると、エーテルは[魔法の原動力にも繋がる生命エネルギー]という点で考えたとして…ヘリオが魔力に長けているのはエーテル体だからってことですか?」
「きっとそうだろうな」

アリスとはまた違う勘とひらめきを持つガウラ。
アリス1人では辿り着けない答えに、着実に近づいている。

「人(一族)が身体とエーテルを有して産まれることとアリスの仮定である枷があるということを前提に考えてみよう」
「黒き一族はエーテルに、白き一族は身体に枷をつけている?」
「きっとな、そして枷が目に見えるものだと仮定してみるぞ。
エーテルは産まれ持ってのものだから、黒き一族は産まれた頃より痣がある…痣が見える枷とするならばだ。
そして白き一族は10歳を迎えると儀式をする、身体に枷をつける為だ。
次に白き一族と関係する[精霊]だ、精霊はそもそもこの黒衣森の森と一体化した存在…パパリモが言っていたのを思い返すと、精霊はエーテルに似た何かなんだろう。
だが角尊やグリダニアの道士は精霊の声を聞ける…正直なところ、正体は不明だな」
「パパリモ?」
「あぁそうか、アリスは知らないんだっけか。
パパリモは暁のメンバーだったのさ、バエサルの長城で召喚された神龍を封印するために、命懸けの封印を行った」
「そんなことが…」
「私が暁の血盟の中で最初に出会ったのが、そのパパリモと彼の相棒のリセだったんだよ」

そう話しているうちに個人宅へ到着した。
一旦話を終え中に入ったあと、夕飯の支度を始めながら話を再開することにした。
ちなみにヴァルは不在、「祖父に呼ばれた」とか言っていた…凄く不機嫌そうな表情だったのを覚えている。

──────────

「[精霊のイタズラ]なんだが、私は脳に刺激を与えられていたのではないかと思うんだ」
「脳、ですか?」
「そう、話を[身体(脳)が武術を覚えている]という仮定で進めるぞ。
母さんは『一族には武力に長けた者がいない』と言っていた。
精霊は武術を覚えるであろう脳に語りかけ刺激を与えることで、武術を覚えられるはずの脳の領域を狭めていたんじゃないかってな。
そして10歳になると純血児は儀式を、混血児は刺青をすることで更に武力に枷をつけた。
これが白き一族の見える枷だ」
「なるほど…、でも義母さんは『魔力の制御のために儀式をする』って言ってませんでした?
その仮定だと破綻するような…」
「あぁ、でもこうも言っていた。
『儀式をする真相は歴史に埋もれて不明』だと。
リガンは一族の歴史を記録していたが、[儀式をするという行い]だけが記録されていて[儀式をする理由]はどこにも記述がないんだそうだ」
「え!?」
「『精霊がイタズラをした際に魔力が暴発する』ことと『ただ何かが制御された感覚』だけがあるから、[魔力を制御する為]と解釈されたんだろうと思うよ。
ちなみに儀式後に精霊が何もしなくなるのは身体が覚えるはずの武力に枷をつけられたから、とも考えられる」
「ははぁ……」
「儀式は始祖の杖から削った枝と媒介とする果物、そして術式が使用される。
枷も術式によるものだとすれば?」
「儀式によって知らないうちに枷をつけている?」

小さく頷き持っていたものを机に並べるガウラ。
座っているアリスの目の前には塩気のあるビスケットとディップソースが置かれている。

「次に混血児は儀式をしない点。
恐らくだが、外の世界に出る可能性のある混血種が術式を記憶しないためだろうと思うんだ。
黒き一族の中で痣を持たずに産まれた赤子と同じように」
「それ、知ってるんですか!?」
「あぁ、ヴァルからある程度聞かされたさ。
だが一族として森に残る可能性もあったから、刺青をすることで武力に枷をつけるんだろうと思う。
刺青に使うインクだが…魔導書や歴史書に使われるインクと差がないと考えると道理があるんだ。
インクというものは、[相性のいい砂を粉末にし、エーテル伝導率を上げたもの]が出回る。
魔導書を作る際もそのインクを使い魔導書として機能させるし、本屋さんにあるような本だってそのインクが使われる。
後者については目が不自由な人に対しての配慮の1つだね」
「詳しいんですね…俺は考えたこともなかったや」
「まぁ、クラフターをやっていると嫌でも覚える項目だからねぇ」

苦笑いをし、一息つき茶を飲む。
今日は頭を使う日だ、一息入れないとやってられない。

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世界から見る記録
エーテル:魔法の原動力にも繋がる生命エネルギー
精霊:エーテルに似た何か、角尊やグリダニアの道士が声を聞けることを考えると[意思を持つエーテル]という解釈が可能
インク:相性のいい砂を粉末にし、エーテル伝導率を上げたもの

一族の記録を見る
1:白き一族/純血の儀式は、[行うこと]だけが記録され[行う理由]は不明
2:白き一族/混血は儀式を行わない代わりに、刺青を入れる
3:白き一族は魔力(魔法)に長けている
4:黒き一族で痣のない赤子は、情報漏洩を防ぐ為に殺処分
5:黒き一族は武力(武術)に長けている

前提を纏める
1:黒き一族の魔力を封じる為の枷、白き一族の武力を封じる為の枷がある(●)
2:一族だろうと人は皆平等に、身体とエーテルを有して産まれる(▲)
3:枷は見える物だということ(■)
4:枷は術式がある(★)
5:精霊は脳に語りかけ刺激を与える存在(◆)

仮定を纏める
1:●は誰が作ったものなのか、何の為にあるのか
2:▲/身体(武術に長けたガウラ)とエーテル(魔法に長けたヘリオ)の関係を考えると、[武術は身体が記憶しているもの]であり[魔法はエーテルが持っているもの]となる
3:■は痣や刺青とする
4:エーテルは産まれ持って得ているもの、黒き一族が産まれた頃から痣がある理由になる
5:白き一族が産まれた頃から武術が苦手としている理由に◆がある、精霊が脳に刺激を与えることで[武術を覚えるはずの脳の領域が狭められている]と仮定
6:白き一族/純血が儀式に使っている術式=★、儀式で枷をつけている
7:武術に枷をつけることで、精霊から刺激を貰うことがなくなる=イタズラもなくなる
8:白き一族/混血は刺青に使用するインクは、術式を込められる程のエーテル伝導率が存在する
9:8により武術に枷をつけている
10:白き一族/混血は外に出る可能性と集落に残る可能性を考慮して、前者は[儀式をすることで術式を漏洩しない為]後者は[一族として生きる為]

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「ふぅ……こんなもんですかね?」
「だろうね、いやはやよく纏めたもんだよ」

ペンを置き伸びをするアリスに感心するガウラ。
ここ数日は彼の意外な一面を見れて面白いのだが、こう、真面目というかなんというか…。

「義姉さんの知識が凄い上に、どんどん仮定が出てくるからびっくりですよ」
「私はお前の真面目な一面が意外すぎてびっくりだよ」
「どういうことですか!?」
「さぁな〜」

ヘリオがオールド・シャーレアンで得たものがあるならもっと確信に近づけるのだが、生憎忙しいのかほとんど連絡が来ない。
アリスも寂しいようでガウラに会う日も増えている。
ガウラ達が暁の血盟と共にオールド・シャーレアンへ行く日も、彼ら一族の真相に辿り着く日も近い。
平和に終わってくれてばと、切に願う。

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