Extra16:猫と過ごす
「猫ちゃんの夢」
「たっくさんの猫ちゃん!」
「ふっかふかのふっわふわで…」
「にゃんにゃんっていっぱい鳴いて〜」
「あ、皆にも猫ちゃんになってもらおうよ!」
「それはいい考えね!」
「ほら、ちょうどあそこにニンゲンがいるよ?」
「ホントだ!」
「「「可愛い猫ちゃんになぁれ!」」」
「……はぇ!?」
それからの記憶は定かではない。
─────
『───で、だから──だわ』
「はぁ……───」
『よろ──』
微かに聞こえる話し声、可愛らしい声はフェオ=ウルだろうか。
もう1人は…ヘリオだろうか。
何だか温もりを感じる、エーテル体でも体温はあるのか。
このままもう少し眠っていたい…。
「……あぁ、アリスか。実は──」
《えぇ!?──大丈夫なのか!?》
「あぁ、問題ない。帰ったら改めて説明する」
《分かった、それじゃぁ義姉さんの個人宅で──》
妙に音を聞き取れる気がする。
話し相手はアリスか…。
そんなことをうとうとと考えながら、私は再び眠りについた。
─────
「で、まだ寝てるの?」
「あぁ、温いらしい」
「へぇ〜…可愛いなぁ…」
ふかふかと触られる感覚に、薄らと目が覚める。
アリスは大きな手だな、なんてどうでもいい事を考えながら、1つ大きな欠伸をした。
お陰で少し目が冴えたので彼と私を抱いているヘリオを見る。
……抱いている?
「みゃ?」
「あ、おはようございます義姉さん」
「起きたか?」
「………にゃぁーーーー!!?」
流石に目が冴えたどころじゃない。
ヘリオに抱っこされていたことも問題だが、私も猫に姿が変わっていたことも問題だ。
飛び起きた、文字通りに。
第一世界に用事があってイル・メグに行っていた…そこでピクシー達に飛びつかれたところまでは覚えている。
「(あいつら、何かやったな!?)」
でなければ私が猫になるはずがない。
フェオ=ウルではないと願いたい。
興奮のあまり膨らんでしまったしっぽをヘリオに興味本位でそっとむぎむぎされたので、状況整理も兼ねて一旦落ち着くことにした。
─────
「つまり、夢の園の妖精たちが、猫に囲まれて楽しんでる子供の夢を見たのをキッカケに編み出された魔法だったのか」
「あぁ、フェオ=ウル曰く[時間経過で治るはず]らしい。
命に別状はないから、こっちに連れ帰ってきたわけだ…向こうに居座らせると妖精達が遊びに来てしまうからな」
「なるほど…」
今度はアリスに抱かれたまま話を聞く。
ちなみに大きさは少し小柄な成猫くらい、姿はまるっきし猫なので喉や頭を撫でられまくっている。
毛並みは良好、少し長めの白い毛でふわふわしている。
案外撫でられる手が気持ちよく、ゴロゴロ喉を鳴らしてしまうのが難点だ。
「にしても本当に猫みたいだな…」
「猫(ミコッテ)だから仕方がない」
「いいのかよそれで……」
「ゴロロ……(よくないよくない)」
時間経過で治るはず…それも恐らく1日程度。
その言葉を信じるかは彼ら次第だが、とにかく解除方法もなくどうしようもないので、猫を愛でるだけとなったのだった。
……きっとコイツらは私(ガウラ)であることを忘れているだろう。
私も忘れそうだ。
─────
ケット・シーのように二足歩行ができるわけではないが、脚力はそれ相応に高いようだ。
もふもふむぎむぎされないように高い所に登って避難する。
アリスは撫でたいらしく、じっと私の方を見ている。
ヘリオはそこまでして撫でたいわけではないようで、特にこちらを見ている様子もない。
「もふもふしたい…させてください!!」
「みゃぁーう!んなぁ!!(絶対もふもふさせるもんか!)」
そうやってアリスと私が睨めっこしていると、ガタンッと勢いよく扉が開いた音がした。
「な、なんだ!?」
「?」
ズカズカと気にすることなく入ってきたのはヴァルだった。
何だか怒っている雰囲気だ。
私は物音にびっくりしてしっぽと背中がボサボサだ。
「ガウラが猫になっただって…?」
「俺のせいじゃない!」
「やったのは第一世界の夢の園の妖精達がだ、1日を目処に時間経過で治るはずと妖精王から聞いている。
姉さんなら…そこだ」
ひょこりと高い所から顔だけを出す。
ヴァルは不服そうな顔をしている。
何故だろう、いつも以上に人の表情が分かりやすい。
「………」
「…なぁぅ」
とりあえず一声鳴いてみる。
するとヴァルはため息をつきどこかへ行った。
アリスとヘリオが首を傾げていると、ヴァルが脚立を持って戻ってきた。
「…おいで」
ヴァルが脚立を立てこちらへ登ってくると、私にしか聞こえない程度の小さな声でそう言った。
その声色はいつも以上に優しく聞こえ、それがとても心地のよいものに感じた。
気づけばそっと手を伸ばされ腕に抱かれた。
「それじゃ、あたいはこの子を預かる」
「え?あ、ちょ」
「まぁその方がいいだろう、助かる」
「……ふんっ」
「もっともふもふしたかったぁ〜!!」
なんて声が聞こえた気もするが、されるがままの私にはどうすることもできなかった。
─────
ヴァルに連れられ2階の自室へ入る。
ベッドに直行して私を下ろすと、ヴァルは身軽な格好になり横になった。
そういえば、連日任務続きになったと言っていただろうか?
この家は安心するようで、時々…稀だがこうしてゆったり過ごせる姿を見られる。
これはこれで私だけが見れる特権だなと思いつつ、彼女の腕にもたれるようにして丸くなった。
「…あまり、動物は……しかも犬や猫のような小さい生き物は慣れてないんだがな…」
「ゴロゴロ…」
「……温かいな」
「にゃっ」
何だか恥ずかしくムズムズするので、大きな欠伸をして誤魔化す。
ヴァルも1つ小さな欠伸をすると目を瞑り、しばらくすると寝息が聞こえた。
[猫は癒し]などという謎の論文が存在するとは聞いていたが、これがそういうことなのかとテキトーに考え、私も眠りについた。
─────
「ん……ふぁぁ…」
「起きたか?」
「あれ、今何時……」
目が覚めたら外は暗く、ほのかにランプの灯りが家に点っていた。
「夜中の3時頃だ。
1時間程前に腕が急に重くなってな…姿が戻ったみたいでよかった」
「あー…結局あの後ずっと寝ていたのか」
「あぁ、あたいもガウラもぐっすりだったみたいだ…不覚だった」
「家にいる時くらいはイイと思うぞ…?」
「食事ならヘリオとアリスが用意してくれてたみたいだ」
と言われたので、軽く胃に入れようと思い1階へ降りた。
彼らは泊まらずFCハウスに帰ったようで、置き手紙と食事が置かれていた。
結構身軽に動けていた分、今は何だか体が硬く感じる。
背伸びをしてみればパキパキといい音が鳴った。
「今度、フェオちゃんにお礼言っとかなきゃな」
「?」
「妖精達を束ねている今の妖精王さ、どうせ今回も上手く立ち回ってくれたんだろう。
じゃなければ、私は今頃あの子達のおもちゃにされてただろうさ」
「……第一世界はあたいは行けない場所だから、あまりそういう事故は起こさないでおくれ」
「はは、気をつけるさ」
こうしてガウラの猫化騒動は無事に終結したのだった。
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