Main2-8:目覚めた力
怒りを覚えた。
僅かに手が届かなかった自分に…生きる者などただの道具だとでも言うように、嘲笑う相手に。
ただ、だからと言って1人で立ち向かうような無脳な行為はできない。
必要な撤退と判断し、状況を説明するべくガウラは一度塔の外へ出た。
─────
ゾットの塔。
そう名付けられた禍々しい建造物を目の前に、ガウラは1つ息を吐く。
そんな様子を遠目から見ていたサンクレッドは、近づきながら話しかけた。
「どうした?」
「ん?……あぁ、なんというか…気味が悪いなと」
「色んな場所を旅して見てきた物よりか?」
「あぁいや、見た目というか…」
「お前にしちゃ、歯切れが悪いな」
「あぁ……」
悪寒がする。
見た目だけではない、何か悪く渦巻くものを感じる。
エーテルだろう。
いつからか、視えるようになっていたそれを、ガウラは気味の悪いものだと感じていた。
お陰様で本調子程ではないが、挑むしか道はない。
大きく深呼吸をすると、ガウラは面々にこう言った。
「みんなを救って、生きて帰ろう」
─────
死闘を繰り広げた…ほどではなかった。
だが悪寒は拭えることなく、塔の頂上で強く感じる。
エーテルを視るヤ・シュトラを横に、ガウラは冷や汗を拭いながら呟いた。
「なんなんだ……」
と。
「!?」
直後、足場がぐらりと傾いた。
ガウラは咄嗟に足を踏ん張らせ、周囲を見る。
塔の機能が失われ、崩れ始めているようだ。
脱出しなければ。
そう考え始めたところで、暗転した。
─────
「………うっ…?」
いつの間にか気絶していたようだ。
目を開けゆっくりと起き上がる。
ここは、恐らく塔のあった場所…周りには捕まっていた者たちと暁の面々が倒れている。
どうやら死なずに済んだらしい。
だが誰が?
思考を巡らせているうちに他の者たちも次々と目を覚ましたようで、各々状況整理をする。
やがでそこにクルルたちも合流し、未だ倒れたままのグ・ラハの元へ集った。
「魔力を使い果たしたみたいで、目を回しちゃってるのよ。
しばらく休ませないといけないけど、命に別状はないわ」
どうやらグ・ラハがレビテトを使ったらしい、しかもここにいる全員に。
お陰様で魔力は空っぽ、こうして目を回してしまっているということだ。
とにかく一段落したということで、一行は話の流れでラザハンへと赴くこととなった。
─────
君は私が知りうるかぎりでも、運命と力を、引き寄せすぎている。
良きものも、悪しきものもだ。
それらは君を安寧の内に留まらせてはくれない。
困難な試練となって、次々と襲い来るだろう。
しかしもっとも恐ろしいのは、君の中心に渦巻く熱が、君のそばにいる者を、燃やし尽くしてしまうことなのだ。
……進むのなら、護り抜け。
それこそがいつか必ず、君自身の力となり、希望になる。
ラザハンを去る間際、ヴリトラに言われた言葉だ。
その言葉は、重く、強く、心に留まった。
目に浮かんだのは、私を護ったオルシュファンの最期。
私のそばにいたことで、彼は……?
そう、一瞬、考えてしまった。
過ぎたことに嘆いてはいられない。
私は、護る為に進むのだから。
─────
バルデシオン分館に着き、みんなで夜を過ごした次の朝。
どうやらアリスが帰ってきたらしく、頼んでいた物と共にやって来た。
「次は俺も連れて行ってくださいね!?
はいこれ、頼まれていた物です」
「ははは、まぁ大凡の事は分かったからね、次があれば、な。
はい、どうも」
「それで、それを使う理由は聞きましたけど、どうして急務だったんです?」
「あー、そっちは伝えてなかったっけかな…。
…ヘリオの膨大している魔力、気づいてるかい?」
「!
……?何で義姉さんが気づいて?」
「……この視えているものがそうなのかは分からないが、視えたんだ、私にも」
「!」
「私は、あいつの中に渦巻いている、力(エーテル)を視た」
「なん…!?」
「その力は私にも繋がっている。
影響を受けて共鳴しているんだよ。
けれど私の体じゃとてもじゃないが受け止めきれなくてね…。
だからコイツが出番なのさ」
そう言ってガウラは頂いたクリスタルを見る。
それはヴァルが身につけていた物よりも鮮やかで、綺麗に輝いている。
「魔力の増幅器としても扱えるだろう、もしくは制御する器だな。
両方とも、私には捨て難い機能だと思うよ。
ヘリオが増幅させたあの力を、私も影響されて増幅しているなら、私の体に見合うよう、コイツで制御するつもりさ」
悪いけど、2つ作るから1つをヘリオに渡しておいてくれ。
言いながらガウラは手早く加工していった。
作ったのはネックレス。
綺麗に仕上がったそれをアリスに渡すと、ガウラはまた話を続けた。
「私が視えるようになったのは、最近のことだ。
けれどその視えるものが何なのかは、分からなかった。
だからじっくりと観察する必要があったんだ。
ヤ・シュトラにも相談したところ、視たものはエーテルだということが分かった」
「でも、義姉さんのエーテル量では…」
「私も思った。
だが実際に視えたんだ、ゾットの塔でも…あれは流石に悪寒を感じたが…」
「じゃぁ、なんで」
「ヘリオだよ。
さっき言ったろう?あいつの力が増幅しているって。
その影響を直で受け止めている、必然的に私も力が増幅していたんだ。
エーテル量は大して変わってないが、能力としては強く感じる。
そして恐らく、あいつも私の影響を受けている。
私と違い武力ではなく魔力が強いはずのあいつが、今まで大剣を問題なく振るっていたことは、これが理由だったんだろう」
「影響を受け始めたってのはもしかして、儀式を行ってから…ですか?」
「さぁ、そこまでは分からない。
だが確かに、言われれみればあの儀式以降、あいつの力は強く近くに感じるよ」
元々1つだったんだ、何らおかしくないことだった。
互いが影響し合っている、そして共鳴し、力が増幅している。
ヘリオはエーテル体故に魔力の増幅は問題ない、武力は肉体と紐づくので、実体を得ている分には大丈夫だったのだろう。
だからこそ、ヘリオは気づかなかった。
ガウラは蓄積できるエーテル量が少ない肉体、武力は問題なけれど、ヘリオに影響され強くなっている魔力は蓄積量も多く、限界を超えつつあった。
それは視えるアリスも懸念していたものだった。
そして、本人が1番真に受け分かっていたことだ。
アリスよりも対策を練るのが早く、行動に移せたのはそういうことだろう。
作ったネックレスが、しばらくの間安定させてくれるはずだ。
護ってくれ……そう願うことしか、今のアリスにはできなかった。
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