Extra25:切に願う

ガウラは不滅隊兵舎に居るであろうヴァルの元へ向かいながら、考えていた。

先程のヘリオの取り乱し様、あれ程感情を露わにしたところを見たのは初めてだ。

それも本体であるガウラの心を掻き乱すほどの感情など、感じたこともなかった。

元々1つだったガウラとヘリオは、何かと互いに共感されやすい。

それは痛みであったり感情であったりと様々だ。


「ガウラ?」

「あ、ヴァル」


兵舎から出てきたヴァルは、ガウラを見つけ呼びかけた。


「どうかしたか?」

「あー、いや、ヘリオの事を考えてて」

「…あたいは、あいつのあんな感情を見て驚いた」


ヴァルはそう言った。


「エーテル体だから、感情なんて出ても薄いものだろうと思っていた。

だから、あれほどの感情があったことに驚いているし、何よりヘラだった頃でも有り得ないような感情の出し方だとも思った」

「あいつは、感情の全てを知らない。

きっと本人でさえ驚いているだろうと思うよ。

……痛みは互いに共感されやすい部分があるけど、感情の面ではそんな話を聞かないから、感情の共感はないものだと思っていた。

でも、確かに感じた。

自責と恐怖、怒り…色々な負の感情が混ざったような感覚だった」


アリスたちの元へ戻りながら、ガウラは話す。

ヴァルはそれを静かに聞いていた。


「もし同じような状況になってしまったら、きっと私もヘリオと同じように激情するんだろうな」


そう言ってガウラは苦笑いした。


「あのバカのようにはならないさ」

「そう願うよ」


ーーーーー


「おかえりなさい」

「ただいま。

どうだ?調子は」

「大分良くなってきました」

「そりゃよかった。

ところでヘリオは?」


双蛇党兵舎の医療室に戻ってきたガウラとヴァル。

アリスは安静にしていたが、付き添っていたはずのヘリオの姿が見当たらなかった。


「ヘリオなら外の空気を吸いに行くと言って出ていきましたよ」

「そうか。

ヴァル、私はヘリオを探してくるから、アリスのことを頼んだよ」

「あぁ」


そう言ってガウラはヘリオを探しに外へ出ていった。


ーーーーー


「どこに行ったんだと思ったら、こんな所にいたのか」

「…姉さん」


ヘリオを見つけたガウラは声をかけた。

ヘリオの表情は無表情気味だが、どこか辛そうにも見えた。


「悪かった、取り乱して」

「構わんよ。

もし私が同じような状況になった時、きっとお前と同じことをしただろうしな。

それに、私の心まで動かす程の感情なんて、初めてだったろう?」

「あれは、俺が悪かったんだ。

守れたはずなのに、最善策を見出せなかった。

それだけじゃない。

アリスの回復だって上手くできなかった、ヴァルが居たから回復が間に合ったが…俺1人だときっと死なせていた。

……俺は、何もできなかった」


そう言ってヘリオは拳を強く握る。


「なら、次は何かできるように強くならないとな」

「……あぁ」

「…泣くなら泣け、悔しかったならそう言え」

「……っ、」


そう言われると、ヘリオの瞳からはポロポロと涙が零れ落ちた。

そんな彼をガウラはあやす様に頭を撫でる。


「びっくりしたろ、自分がこんな感情を持ってたことに。

悔しかったろ、思うようにできなくて。

怖かったろ、大切な人を守れなくて。

でもな、感情を抱え込んじゃダメなんだ、私の言えたことではないけどね。

誰か1人でもいい、その感情をぶつけられる相手を見つけて、思いっきりぶつかって来たらいいのさ」

「……っ、ぅ…っ」

「僕らは元々1つだった。

でも、巡り巡って、今はヘリオ・リガンとして、1人の人として生きてるんだ。

だから、聞いて、感じて、考えて、自分の意思をちゃんと持つんだよ」


ヘリオはガウラの言葉に耳を傾けながら、頷いた。


ーーーーー


「正直、びっくりしました」

「何がだ」

「ヘリオの持ってた感情に」


医療室でアリスはそう言った。

ヴァルはそれを時々相槌を打って話を聞く。


「ヘリオはエーテル体だからか、感情がそんなに表に出ないんですよ。

目を覚ましてヘリオの顔を見たら、すごく泣きそうな顔をしてて。

『自分のせいだ』って責めてほしくなくて、言葉を探したけど、結局泣いちゃって。

…泣いたところも初めて見た気がするなぁ」

「……それ程までに、あんたが大切な人になってたんだろうな」

「そうだと嬉しいですね」

「あいつの今回の感情は、ガウラの心にも影響が出る程だった。

今までそんな事例を聞いたことがなかったから、感情面では互いに影響を与えないとガウラ共々思っていたが…ああまで激しい感情となると、影響が出るみたいだな」

「義姉さんに影響があったんですか?」

「あぁ。

ざわつきを覚えたと言っていた」

「それ程、ヘリオの感情が大きかったんだ…」


そう言うとアリスは考える仕草をした。


「ヘリオも成長したんだなぁ」

「…なにニヤついてるんだ、気持ち悪い」

「いやぁ、ヘリオが色んな感情を得てきているのが嬉しくて」

「はぁ……」


そしてアリスは願う。

ヘリオがこれからも感情を見せてくれることを。

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