Extra20:過去を知る

夜な夜な記録を漁るジシャ。
ヴィラの行動により黒き一族が掟の改定を始める中、ジシャは白き一族として行動を始めたのだ。
それは始祖であるニアのルーツを知り、最終目的である[術式の解除方法]を見つけることだった。
始祖は自分の膨大な力を恐れ、その力の一部に枷をつけ封じることで事を収束させた。
だがその術式さえも力は強く、根付いたそれは結果的に後世へ継がれ続けてしまった。
無論、彼女を護ると誓った男…カ・ルナも同じ運命を辿った。
根強く継がれた枷は、術式によって構成されている。
それは記録上知っている事だ。
だが、解く術は記録されていない。
解くべきではない…きっとニアは、そう判断したのだろう。
同じ恐れを知ってほしくないという気持ちから、芽生えた結論だ。

だがここに来て、一族の血を継ぐ者の中に[枷の外にいる者]が現れた。
しかも2人。
フ・アリス・ティアとヘラ・リガンだ。
前例が居たのかどうか、記録を見ないと分からないが…恐らく居ないだろう。
そう、思っていた。

「[けれどそれは好機であり、運命である。
一族の謎を、知るチャンスだからだ。
私は後世に、記録を残す。
自由と、未来の為に…]」

見つけたのは[武力と魔力]という記録名だった。
ジシャはリガンの姓を継ぐ者として記録を保管していたが、閲覧できる項目は限られていた。
元々そういう決め事だったからだ。
[例えリガンであっても、過去の記録を閲覧し、公にすることは禁ずる]というものだ。
付け加えて[記録の更新と保管のみ許可される]というもの。
それが決め事だ。
なぜそうしたのかは定かではないが、きっと頭の堅い者が決めたのだろうと勝手に結論づけた。
結局のところ、誰もかもが真実と未来を恐れたからだった。

[武力と魔力を持つ子が産まれた。
その子はリガンの姓を継ぐ娘、名をシーラとする。
シーラは産まれて最初、武力に目覚めた。
黒き一族の血が濃いと、誰もが思った。
だが容姿はニアのように白く美しいものだった。
どこにも属すことのできない存在だったのだ。
シーラが7歳の頃、武力だけでなく魔力にも素質があることが発覚した。
容姿と魔力を優先し、記録上は白き一族としたが、本来の立場はブランクとする。
ブランクは例え儀式を行っても武力に枷は付けられないだろう。
何が起きるか分からない、今後もブランクの記録を徹底せよ]

それはまさにヘラと同じ立場の存在だった。
過去の記録を開示できないことでブランクという立ち位置には属すことがなかったものの、リガンの家に産まれ武力と魔力を持っているという点においては同じという他ない。
だがここで気になる点がある。
シーラという存在だ。
この名前に、記憶がない。
これではどの時代に生きた者なのか、どういう風格だったのかも分からない。

「あぁ、だからブランクなのか。
一族で例外の存在だから、儀式で何かが起きたか、名を変えて生きたか…。
先代から何度か儀式の失敗を聞いたが、失敗した記録は聞いてないな」

記録を漁ればすぐに出てきた。
失敗と共に名を書かれている書物。
殆どが風脈や地脈に呑まれたと記録されている中、数件だけ別のことが書かれていた。

[…………
…………
……
シーラ:儀式に失敗
小さなヴォイドゲートを開通
最下級の妖異が数体出現
撃破したが、ヴォイドゲートは閉じることがなかった
封印する術として、シーラのエーテルを全て使った
シーラは直後に消滅した]

なんと惨い。
きっと周りの者も焦ったのだろう。
そして恐らく、ニアもこれを予想していなかった。
儀式の術式はあくまで魔力が格段に高く、武力の少ない者が行って成功するもの。
だがシーラは魔力も高い上に武力も負けじと高かった。
要らぬ強さが術式の失敗に繋がっていたのだ。

「だからヘラも失敗したのか。
そして同じようにヴォイドゲートを開けた。
でも結局のところ、エーテルを使った点は変わらなかったか」

ヘラを死なずに済ませたが、ヴォイドゲートを閉じる際にあの子のエーテルを切り離してしまったことは変わらなかった。
しかもあの時の情景を考えると、シーラよりヘラの方が力が強かったのだろう。
死ななかったことだけが、奇跡だろう。

「でもこれだけ失敗した件があるのは何故だ?
環境エーテルと相性が良すぎた?
確かに幻術は環境エーテルを使うが…」

まだまだ記録を漁らねば、答えは出てこないのかもしれない。
ジシャは膨大な記録を前にして、小さなため息をついた。

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