Extra22:こうして足は止まった
それは突然やってきた。
思うように足が動かない、何かを置いてきた気分。
「はぁー……」
ため息しか出ない。
原因なんて分かるものか。
ただ、[旅に疲れた]ことだけは理解できた。
これは休んだ方がいい。
(家も近いし帰ってもいいんだけど…、何となく気が重いな。
ヴァルにもなんか言われるんだろうな…)
モヤモヤする。
外の景色も街の匂いも、いつもなら楽しめるものなのに。
気が滅入るとこんなにもつまらないのか。
「姉さん?」
「…?あぁ…ヘリオ?」
「?
元気ないな、何かあったのか?」
「いや、その…」
首を傾げるヘリオに応えたいところだが、うまい言葉が思い浮かばない。
「…疲れたんだろ」
「!」
「英雄だのなんだのと言われて、誰もあんた自身を見ちゃいない。
肩書きに囚われて、あんたは旅をする理由が分からなくなった。
どこへ行っても肩書きは残り、あんたの居所は狭くなった。
家にも帰りづらいだろう、ヴァルがいるしな」
「…流石というかなんというか」
苦笑いで相手を見る。
相変わらずの無表情だが、どことなく悲しそうにも見える。
「俺は姉さんの旅を追体験してきた。
道中で英雄と間違えられることもあった。
その度に悲しくなった」
「そう、だな。
何のために旅をしているのか、分からなくなってきた。
皆、私を英雄って呼んでさ。
暁の皆もここ最近やっと私自身を見始めたようなもんだし。
それまではオルシュファンとゼノスしか私を見ていなかったんじゃないかって思うくらい」
「…帰ろう」
「どこにさ」
「家に。
帰って休もう。
俺も今のあんたは見たくない、泣きそうな顔してるのは」
「そんなに変な顔かい?」
腕を掴んでガウラを連れていくヘリオ。
帰りに彼女の好きなアップルパイを買って、家に向かった。
─────
「というわけだ。
今はあまり理由は聞かないでやってくれ」
「あ、あぁ」
「それとこれは土産のアップルパイだ、2人で食べてくれ。
俺はこの後アリスと予定を組んでるから、また後日遊びに来る」
「了解した、気を使わせてすまないな」
家に着いて早々にガウラは部屋に入ってしまった。
珍しくただいまの一つもなく行ってしまったガウラに驚いた様子で出てきたのがヴァルだ。
ヘリオは事の経緯を伝えた。
ヴァルも薄々気づいていた様子だが、こうも様子が変わるとは予想もしていなかったようだ。
─────
コンコン
「ガウラ?」
………
反応がない。
「入るぞ?」
そっと扉を開けて部屋に入る。
ガウラはベッドで寝ていた。
服はそのままでベッドにダイブした様子を見るに、もう色々と疲れていたんだろう。
英雄、光の戦士、闇の戦士…肩書きは尽きない。
その肩書きの中旅を続けても楽しめるはずがなかったのだ。
分かっていながら、ヴァルは見送ったしガウラは旅を続けた。
アリスヘリオも、応援した。
だがそのひと押しも、少しづつ重くなってくるもので。
ついにガウラは足を止めた。
旅を続けたい気持ちと肩書きに押し潰されて、立ち止まってしまった。
過ぎたことはどうしようもない。
だがこの状態もよろしくない。
結局ガウラはこの日起きることはなかった。
─────
「旅が嫌になるなんて、思ってなかった。
いや、旅はしたい。したいけど、気持ちが着いてこない…。
モヤモヤするなぁ…」
朝方、まだ陽も上りきっていない時間帯。
ガウラは庭の椅子に座りだらけていた。
その顔は泣いた後のような、スッキリしない表情だった。
ため息ばかりが出る。
今までこんな気持ちはなかったんだ、いや、知らないふりをしていただけかもしれないけど。
1人静かに思いふけっても何も解決しないのは分かっている、それでも相談するには言葉が難しい。
よくもまぁヘリオは口にできたなと思う。
元々ガウラの中にあったエーテルなのだから、気づかないわけがなかったんだ。
逆に言えば助かったとも言える…。
「居ないと思ったら、ここに居たのか」
「おはよう、ヴァル。
昨日はごめんよ、その、気持ちがごちゃごちゃしちゃってて」
「構わない。
ヘリオから事情は聞いた。
客観的にものを言ってくれたが、あいつも元はガウラの中にあったヤツだ。
アイツからの言葉でも、きちんとお前のことだと感じたさ。
……今は休め、冒険もひと段落してるんだろう?」
「そうもいかないさ、第十三世界のこともあr─────」
「第十三世界?」
「あー、その…」
そういえばアジュダヤを探しに行ってるとは言ってなかったかとここで気づき、ヴァルに話をする。
また首を突っ込んだのか、と呆れた顔をする彼女を見て、ガウラも苦笑する。
「だからどこまで行っても英雄なんだ」
「ゴモットモ」
「分かっててやってるのか、巻き込まれてそうなってるのか…」
「んー、どっちも?」
「はぁ…。
とにかく休め、そうじゃなきゃやりたい事も続かないだろう。
暁の連中にはヘリオを通して伝えてもらうから」
「…ありがとうな」
そうやって、ガウラの休息が始まったのだ。
まずは昨日の土産のアップルパイを食べるところから。
ゆっくり過ごそう、そしてまた旅をしたくなったら出かけよう。
肩書きなんて消えないけれど、肩書きから離れることはできるのだから。
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